経済情勢悪化で欧州主要企業が新工場建設を断念
プラスチックのリサイクルは、プラスチックゴミの削減やそこから精製されるリサイクルエネルギーなど、持続可能な社会を実現するにあたり大きな役目をもっている。国や企業関係なく、数多くの取り組みが行われていることは弊誌でもお伝えしてきた通りだ。
しかし、新たな課題が浮き彫りになっている。
欧州の大手化学メーカー,ボレアリス、ダウ、ネステがそれぞれ計画していた大規模リサイクル工場の建設を断念することが決定された。この動きは、同地域においてプラスチックリサイクル工場の閉鎖や倒産に追い打ちをかけないか懸念されている。
オーストリアに本社を置くボレアリスは、同国シュヴェヒャートでの年産6万トンのポリオレフィン(合成ポリマー)のリサイクル工場の開設計画を保留すると発表した。同社は年内の工場開設を目指していたが、「プロジェクトを再度評価した結果、現在のマーケットでは工場が期待される業績目標を達成しないことが判明した」と説明している。
アメリカの化学大手のダウは、2022年に発表したドイツ・ベーレンでの年産12万トンの混合プラスチック廃棄物化学リサイクル工場建設計画を断念した。この工場では、イギリスのムラ・テクノロジー社のハイドロPRT技術を導入し、超臨界蒸気を使用してプラスチック内のポリマー結合を分解して石油を生成する予定だった。
ダウのこの決定は、同社が7月にベーレンのエチレンクラッカーおよび関連石油化学施設を2027年に恒久閉鎖すると発表したことに続く。構想されていたプラスチックリサイクル工場からの石油は、このクラッカーの原料として使用される計画であった。ダウは、エネルギーの高コストを含む欧州での高い運営コストを理由に挙げている。
フィンランドの石油会社ネステとベルギーのプラスチック供給業者ラヴァゴ・マニュファクチャリングも、オランダ・フリシンゲンでの年産5万5000トンのプラスチックリサイクル工場の建設・運営計画を停止した。この工場では、アメリカのアルテラ・エナジーが開発した熱分解技術の使用が予定されていた。
欧州のプラスチックリサイクル事業者を代表する業界団体、プラスチックス・リサイクラーズ・ヨーロッパは、1年以上にわたり欧州のプラスチックリサイクル業者が直面している経済的競争について警告を続けている。
同団体は5月、全EU加盟国政府に書簡を送り、この部門が「政治的行動を必要とする深刻化する危機に直面している」と訴えた。

これらの背景には、石油原料の価格が依然として大幅に低く、リサイクル材料への需要が弱い中国を含む第三国からの競争が激化していることがある。
欧州では現在、ポリマーの主要原料であるエチレンを年間2000万トン以上生産している。また、年間約1000万トンのプラスチックをリサイクルしている。欧州リサイクル協会EuRICによれば、プラスチックをリサイクルすることで、石油から作られたプラスチックと比較して、プラスチック1トンあたり約2.5トンの二酸化炭素を削減できるという。欧州企業が実現しているリサイクルプロセスが環境負荷を低減させていることは明白だ。
もちろんこれは日本にとって対岸の火事ではない。同様の市場構造を抱える日本の循環型社会実現にとっても、重要な課題となっている。経済という逃れられない枠組みのなかで、環境負荷を低減しつつビジネスとしても成立させるという、大きな壁が人類の前に立ちはだかっている。