捨てられるだけの海藻に価値を。海藻由来の新世代のパッケージ
インドネシアの海藻生産量は、中国に次いで世界2番目。一見すると、海藻はインドネシアの人々にとって、彼らの生活を豊かにするもののように思えます。
インドネシアの海藻生産を担うのは、複数の小規模な海藻農家。昔ながらの家業として代々受け継がれていくことがほとんどです。海藻農家以外の選択肢を選ぶ若者は、あまりいません。
いまインドネシアで起こっているのは、海藻の過剰供給問題です。売り物にすることができないのに、廃棄されるだけの海藻を生み出し続ける。そして、適切に廃棄するだけの経済力もないため、海藻は違法に投棄されていきます。
そうして違法投棄された海藻は、海を漂うペットボトルなどと混ざり合って、台風のたびに街に打ち寄せられます。
「インドネシアでは、人々が飲み終えたペットボトルをそのまま海に捨ててしまうこともあるようです。そのプラスチックを魚が食べ、その魚を人間が食べる。海藻問題と、環境への意識の低さ。これらは、人間の健康面・衛生面にも関わってくる重要な問題です。そんな問題に一石を投じたのが、BIOPACなんです」
そう話してくれたのは、BIOPACの日本の正規代理店ModernR(モダナー)合同会社の担当者。ModernRはサスティナブルな製品を主に取り扱う会社で、その領域はブランディングから、製品販売まで多岐に渡ります。
「BIOPACを開発したのは、インドネシアの大学で食品工学を教えていたNory(以下、ノリー)さんという女性です。インドネシアで様々な環境問題に直面する中、生活に直結する問題として彼女が捉えたのが、海藻問題だったんです。母国の海藻農家の貧困の解決策として、2010年から開発をスタートさせ、2017年にはインドネシアでの販売をスタートさせました」
BIOPACは余剰海藻を原料とした新世代のパッケージです。海藻は二酸化炭素を吸収するため、パッケージ化された後も同じ性質を持ちます。さらに、海藻を由来としているため食べることもできますし、廃棄された後は土壌の微生物が自然分解してくれるのです。
環境に負荷を与えないパッケージとして、これ以上理想的なものはない。そう感じますが、いくつかの課題を抱えています。その中の一つが、価格問題です。
「プラスチックや紙のパッケージと比較した場合、原価が2~3倍ほどになります。そのため、原産国であるインドネシアで使われることは、まだあまりないようです。ただ、感度の高い海外のブランドには認知されていて、定期的に発注があります」
「インドネシアの平均気温は25〜28℃なので、本国ではデータがなかったのですが、当初より『BIOPACは冷蔵・冷凍には向かない』と聞いていました。冷蔵保存を試みると確かに硬くなって割れてしまったのです。 通常だと、果物をそのまま入れられるほどの柔軟性があるのですが、気温が12度あたりを下回るとお煎餅みたいに固くなってしまって。今月からはBIOPAC社とModernRの2社で協力しあい、日本のさまざま地域・業種の方々にモニタリングしていただき、それをフィードバックしてインドネシアで改良する新しいフェーズをスタートさせることになりました。日本の冬を越えられるようになるまで、もう少し待っていただけると嬉しいです」
日本の気温というハンデを乗り越えるためにはもう少しの時間が必要ですが、“今はまだ使えないから”で歩みを止めては、新しい素材は普及していきません。ModernRでは、今のBIOPACでも出来ることを模索し続けています。
「昔、八百屋さんでは新聞紙に野菜や果物を包んでくれることがありました。秋や冬を避ければすぐにでも同じ使い方が出来ますし、海藻由来なので食材に悪い影響を与えることもありません。見た目も楽しんでいただきたいです。細かい斑点のようなもの生じることがあります。これは海藻の旨みが凝縮されたもので、一種の"アジ"として捉えていただけると嬉しいですね。ちなみに、鼻を近づけてみると、海藻の香りがしますよ。日本人にとっては馴染みのある匂いかもしれませんね」
使い捨てカトラリーのパッケージとしても活用が可能。
見た目の楽しさは、色合いにも表れています。基本のベージュに加えて、グリーンやピンクのものも用意されています。食用の着色料を使用することで、BIOPAC本来の特性はそのままに。
「少し工夫が必要ですが、インクジェットプリンターでプリントすることも可能なので、名刺を作るのも面白いと思います。最近の名刺は、スマートフォンに取り込んだあとの扱いに困ることがありますよね。BIOPACで名刺を作れば、土に還せますし、お湯で溶かすこともできます。ちなみに、インドネシアで海藻原料のインクを使用して印刷するオーダーメイドも承っていますよ」
こうしたBIOPACの新しい可能性は、ほとんどがModernRからの提案です。インドネシアと日本。遠く隔たるこの二つの国で手を取り合って、BIOPACを形作っているのです。その縁を結んだのは、一本のラジオ放送でした。
ビニール袋の代わりに、海藻由来のパッケージを選ぶ未来
「3年前よりModernRではノルウェーからオーガニックの海藻の調味料を輸入販売していました。そのうち、海藻そのままが欲しいというリクエストもいただくようになっていたのですが、紙袋を使うのはありきたりだなと思って。その時に思い出したのが、ラジオで聞いたBIOPACの話でした。すぐにコンタクトを取ってみると、ノリ―からリアクションがあったんです」
折しも、ノリ―自身もBIOPACを広めようとしていたタイミングでした。
「日本に必要なアイテムであると同時に、よいことにはModernRがもっているスキルやコネクションを惜しみなく提供したいと思い、すぐに日本での販売をスタートさせました」
商業利用以外にもBIOPACは活用されようとしています。
「学生の方から、文化祭やビジネスコンテストに使ってみたいという問い合わせをいただくようになってきたんです。これからの未来がどうなっていくかによって、将来の生活が左右されますから、若い世代からのほうが真剣さが伝わってきます。BIOPACにはまだ課題はあるものの、将来を案じる彼ら若い世代の声で、状況が変わっていく予感がしています。企業にも地球への投資だと思って、ぜひ手に取っていただきたいですね」
原料となる海藻はふんだんにあるので、BIOPACを量産する準備は既に整っています。
「日本は、最も長生きし、最も健康な人々がいる国です。皆さんは海藻を日常的に食べているので、海藻由来の環境に優しいBIOPACは、どこか懐かしさを感じるのではないかと思っています。使い捨て包装の代替品として、BIOPACを選ぶ。その選択は、日本人の皆さんの心に寄り添うものだと、私は信じています」
BIOPACが広まると、インドネシアの海藻農家の人々の生活も変わっていきます。この新素材が日常的に選ばれるようになった時、環境も社会も良い方向へと進んでいく。そんな未来が期待できます。