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ポテトチップスの袋は5層のフィルムから出来ている。誰も知らない「プラスチックフィルム」の世界

ポテトチップスの袋は5層のフィルムから出来ている。誰も知らない「プラスチックフィルム」の世界

ポテトチップスの袋は5層のフィルムから出来ている。誰も知らない「プラスチックフィルム」の世界

日常生活の中で、私たちが最も手にするものは「袋」かもしれません。スーパーやコンビニに並んでいる商品を包む袋やレジ袋、紙袋など、何気なく使っています。そんな「袋」の中から今回は食品を包装する袋=パッケージにフォーカスしたいと思います。一枚の袋には、私たちが想像もつかない隠された機能と、それを実現するための開発秘話がありました。

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどに並んでいるスナック菓子。パッケージを眺めたり、手に取ったりしていても、その包装にどのような技術が使われているのか考えたことはほとんどないのではないでしょうか。個人的な話になりますが、以前テレビで、ポテトチップスなどの袋が膨らんでいるのは運送時に割れないようにするためというのを観たときに「なるほど!」と思った程度です。
こうしたスナック菓子の袋を、文字通り縁の下の力持ちのように後ろから支えている企業の一つが、「フタムラ化学株式会社(以下、フタムラ化学)」です。今回お話を伺ったのは、名古屋工場で日々包装用フィルムを研究・開発されている製品企画Gの後藤直美さんです。
「私たちが作るフィルムにどのような効果があり、どのように使われているのか、イメージしづらいですよね。わかりやすいものにポテトチップスの包装があります。あのポテトチップスの袋、実は5層のフィルムから作られているんです」
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「一番外側はOPP(延伸ポリプロピレン)フィルムでできています。中身のポテトチップスを保護することはもちろんですが、ここに印刷をすることで内容物やメーカー名などの情報を入れたり、商品のコンセプトイメージやイラストを表示することで消費者に商品を訴求することができます。その次がポリエチレンのフィルム。こちらは保護機能の強化とともに、フィルムを重ね合わせる際に接着剤としての効果があります。その次はポテトチップスの袋を開けたときに見える銀色の層です。PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムにアルミニウムを蒸着したものです。アルミニウムの薄い蒸着膜が遮光性や高いバリア性の機能を有することで、スナック菓子の吸湿や酸化による劣化を防ぐ役割を果たしています。その次もポリエチレンのフィルム。こちらは先ほどと同じ役割を果たします。最後に「シーラント」と言われるもので、ここで使用されるCPP(無延伸ポリプロピレン)フィルムは高い密封性を有するだけでなく、特別な機能を備えています」
ポテトチップスだけでなく、様々な商品の包装に使われているフタムラ化学のフィルム。目には見えない様々な工夫と機能が、私たちの生活を支えてくれています。
後藤さんが最後に説明してくれたCPPフィルムの機能とは。身近なのに知らないことばかりのフィルムの世界の話はまだまだ続きます。
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スナック菓子の袋はなぜ開けやすい?
「スナック菓子で使用されるCPPフィルムに求められるのは二つの性質です。内容物を保護するための優れた密封性を実現する“ヒートシール性”。そして、 “イージーピール性”という、剥がれやすさです。つまり、密閉性を保ちながらも開けやすさを実現するために作られたフィルムなんですね」
密閉性に優れていながら、開封性が高い。この矛盾した性質は、お客様の声を聞いたメーカーさんからの要望だったそうです。
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CPPフィルムの中に更に層があり、その層の間で剥離していくのだとか。

「ちなみに、レトルト食品のパッケージにもCPPフィルムが使われています。ただ、レトルトパウチでは内容物である液体が漏れては大変なので,イージーピール性は無く非常に高いシール強度が求められます。スナック菓子のパッケージはアルミニウムの薄い蒸着膜をフィルムの一部にしているのですが、レトルトパウチでは高いバリア性の要求から蒸着層の何倍も厚いアルミ箔を一つの層にしていて、バリア層にも違いがあります。缶詰をフィルム化したものと言ってもいいかもしれません。切れ目があって手で簡単に切れる、どこからでも自由に開けられる。そうした、皆さんが一度は触れたことのあるパッケージは、同じのようで同じでない様々な工夫がされているのです。開封する時に、今日お話ししたことを思い出していただけると嬉しいです」
フタムラ化学はパッケージの原材料となるフィルムを提供しているため、直接パッケージを作ることはないそうです。ですが、彼らが作り出すフィルムがなければ、食品を安全に保存できないし、開封するのも一苦労。目には見えないけれど、私たちの生活の一番身近なところにあるもの。それがフィルムなのです。
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地球に配慮を。これからのプラスチックフィルムの行く先。
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私たちの生活を支えてくれているフィルム。ただ、忘れてはいけないのが、現在のところフィルムの多くは石油を原料としたプラスチックであり、中身が消費されたあとはごみとなり、その多くが焼却され二酸化炭素を排出していること。このようなプラスチックフィルムに対して、フタムラ化学はどう取り組んでいくのでしょうか。
「ストローなど、いくつかの製品で行われているような紙への切り替えは現実的ではありません。空気の侵入による酸化や、水や油分の浸透などの問題が出てくるためです。食品を保護し、市場まで安全にお届けし、かつ環境負荷低減を考えた時、素材そのものを切り替える必要があります。そのスタートとして、廃食用油などの再生可能資源に紐づいたマスバランス方式によるバイオマスプラスチックフィルムの開発に着手しました。食品包装業界としては国内初の取り組みになります」
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「バイオマスの認証制度として欧州で採用されているISCC(国際持続可能性カーボン)認証を取得しました。私たちだけでなく、サプライチェーン全体に関わる企業がISCC認証を受けるとトレーサビリティが実現します。つまり、生産から消費まで追跡できるようになります。業界全体として本当に環境負荷低減に貢献しているのかが、可視化されるようになるのです。また、石油由来原料と同じ方法で製造された原料なので、従来の性能や安全性を維持しつつバイオマス由来にできることが魅力です。今はまだスタート地点に過ぎませんが、そう遠くない未来にプラスチックフィルムの素材がバイオマス由来のものに変わっていくことが理想ですね。ただ、フィルムは食品ロスとも密接に関わってくるので、バイオマスプラスチックフィルムの開発は一足飛びに出来ることではありません。耐久性の確保や油の酸化を防げるのかなど、現在の製品より性能を落とすわけにはいかないからです。利便性を保ちつつ、環境負荷低減を実現するために、日々開発を続けています」
フィルム業界のトップランナーでもあるフタムラ化学が先陣を切ったことで、業界全体に変化が生まれていくのかもしれません。目には見えないフィルムの世界が、地球環境の保持に寄与していく。そんな未来を楽しみに待ちたいと思いました。
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見せていただいたサンプルの中で面白かったのが、扇型のフィルム。パッケージデザインと一体化していて、ゼリーやプリンのようなカップにそのまま貼り付けられるという便利ものでした。

最後に後藤さんに一番苦労されたことを伺ってみました。
「環境に配慮して印刷に水性インキを使うという方法もあります。この水性インキで印刷できるフィルムの開発を担当したのですが、とても苦労しましたね。企業秘密もあるので詳しくは言えないのですが、フィルムの表面状態を改質することでクリアしました…といっても、分かりづらいですよね(笑)皆さんが普段手にする多くのものは、数多くの工夫から生み出された技術に支えられているとだけ記憶してもらえれば」
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聞けば聞くほど奥が深く、知らないことばかりのフィルムの世界。ポテトチップスを開けて食べる時に思い出したいお話でした。
writer
Equally beautiful編集部
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