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世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

コンビニで服を買う。少し前まで、それは「緊急時の代替品」というイメージが強かったかもしれません。そんな常識を塗り替えたのが、2021年3月から販売が開始されたファミリーマートの「コンビニエンスウェア」です。 『いい素材、いい技術、いいデザイン。』をブランドコンセプトに、靴下からTシャツ、スウェットまで幅広く展開しています。 昨年から はステーショナリーなど、ファッションを飛び越えた展開も。 そんなコンビニエンスウェアの現在地とこれからを、デザイナーの落合宏理さんにお話しいただきました。

捨てさせないパッケージ。押しつけないエコ
「ファミリーマートは全国で約1万6,400店舗展開されています。恐らく、世界で一番洋服が置かれている店舗と言えるのではないでしょうか。 これだけ多くの店舗で、いい商品を、それも基本24時間手に取ってもらえるのは革命的なことですよね。デザイナーとしては熱意をもって取り組ませてもらっています。ただ一方で、大量生産の責任を考えなければいけない」
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

落合宏理(おちあい ひろみち)。クリエイティブディレクター 。アパレルブランド『FACETASM』創業者。

コンビニエンスウェアの立ち上げ前から、そして今も、落合さんは環境問題について考え続けています。しかし、「刻々と世界の状況や技術が変化していく中、何が正しいのか断言するのは難しい」と落合さんは言います。
「それから、“これは環境にいいことなんだ”と押し付けることも、避けたいと考えました。日々の生活の合間にファミリーマートを利用されるお客様にとって、ストレスになってしまうのではないかと思ったんです。じゃあ、何ができるかと考えたときに、“捨てさせないパッケージ”という発想が浮かびました」
コンビニエンスウェアのパッケージは、透明で商品名とサイズだけが記されています。シンプルな構造で、余計な装飾は一切ありません。
特徴的なのは、商品を取り出したあとも“袋”として再利用できる点です。
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。
「レシートや領収書を入れていただいてもいいですし、携帯の充電器を入れる袋として活用していただいてもいい。年間で55億人使うファミリーマートですから、ご自身の生活スタイルに合わせて自由に使っていただけたらと、今のデザインにたどり着きました」
声高に環境配慮を訴えるのではなく、“捨てられにくい”モノづくりを行う。そんなデザイナーとしてのアプローチはパッケージだけではなく、服づくりにも通じています。
コンビニで買える、着て育てる服
「リーバイスの501や、コンバースのオールスターは、多くの人にとって馴染みのあるものですよね。ファッションに詳しくなくても、名前を聞いたことはあるんじゃないでしょうか。100年後も残っていくデザインだと思います。コンビニエンスウェアも、そういうものを目指していきたいと思っていて。スタンダードなデザインだけど、洋服としてワクワクするもの。それがファミリーマートで販売されているんだという、驚きを感じてもらいたいんです」
コンビニエンスウェアのTシャツやスウェットには、USAコットンが使われています。このコットンは“ハリ”があり、肌に馴染みやすく、今も多くのアパレルブランドが採用しています。着ていくうちに風合いが変化していくのも、その人気の理由の一つ。
「コンビニで買う服なのに、その人の生活に合わせて服が育っていく。面白いですよね。だから僕たちはストーリーを大切にするようにしているんです。コンビニエンスウェア第一弾でTシャツを受け入れていただけたから、そのTシャツに合うようなスウェットを発売する。つまり、“これが売れたから、次も作ろう”という考え方ではなく、コンビニエンスウェアという文脈の中で必要とされるものを開発しているんです」
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コンビニエンスウェアのスウェットパンツ(黒)。

落合さんが描くストーリーに基づき、コンビニエンスウェアは年々新アイテムが作られています。しかも、そのほとんどがレギュラーアイテムとして定着しています。しかし、様々な“モノ”の消費速度が速いこの時代において、ヒット商品を生み続けることは本来困難なはず。
その安定した人気と開発速度を支えているのが、ファミリーマートの販売データです。
コンビニでならではの服づくり
「通常のアパレルだと半年かかって分かるようなデータが、ファミリーマートでは翌日には出てくるんです。どんな方がコンビニエンスウェアを手に取ってくださったのか。いつ購入されたのか。その結果と、コンビニエンスウェアとして作っていきたいストーリーをマッチングさせています」
膨大なデータを通してお客様と対話しながら、コンビニエンスウェアのチームが今目指しているのは、トータルコーディネート。
2025年にはリブタンクトップやジップアップジャケット、厚手のコットンカーディガンなど新しいアイテムが次々と発売されました。
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。
街中でコンビニエンスウェアを身に着ける人も着実に増え続けています。それに対して落合さんは「ありがたいですね」と笑みをこぼします。
「コンビニという、みなさんが日常的に使われる場所で“Tシャツ”、“スウェット”という言葉が当たり前に交わされているわけですよね。ファッション畑の人間からすると、これはすごいことなんです。コンビニでファッションを身近に感じて、しかも楽しんでいただいているんですから」
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。
自分がデザインしたものをダイレクトに届けられる。そんなデザイナーとしての醍醐味も感じながら、落合さんはファミリーマートという巨大なマーケットでの挑戦を続けています。
広がり続けるプロジェクトと、デザイナーとしての挑戦
新しい挑戦の一つが、2022年から始まった「ブルーグリーンプロジェクト」。地球に優しい素材を選択して、カトラリーや食品を作るプロジェクトです。落合さんはクリエイティブディレクターとして、このプロジェクトをけん引しています。
「プロジェクト名の由来は、ファミリーマートのコーポレートカラーです。どんな会社も地球環境への影響を考えていかなければいけない中で、緑と青のコーポレートカラーがピッタリだなと思いついたんですよ」
コンビニエンスウェアと同様に広がりを見せ続けるこのプロジェクトで、落合さんの印象に強く残っているのが株式会社カネカと開発したスプーンとフォークです。土だけではなく、海中でも     分解される、カネカ生分解性ポリマーを使用。着色も、天然由来の顔料で行っています。
「クリエイティブディレクターとして、このプロジェクトでどうやって物事を動かしていけるのか。お客様の心に触れられるのか。僕自身も勉強しながら取り組んでいます。ビジネスというよりも、コンビニを通して、新しいモノづくりをどう実現していくかという感覚ですね。カネカさんとの仕事には刺激を受けて、その感動を形にしたらお客様にも受け入れてもらえた。ありがたいことです」
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet® スプーン・フォーク

もう一つの大きな挑戦が、2024年からスタートしたコンビニエンスウェアの文具ラインです。日本の文具業界のトップランナーであるコクヨ株式会社と共同開発しているもので、発売されるやいなや多くの注目を集めました。
「工業製品をデザインする機会をいただけるのは、ファッションデザイナーとして本当に貴重なことです。文具の世界には学ぶことばかりで、いい経験をさせてもらっています。服から始まったコンビニエンスウェアが、こうして文具まで広がったのは、ファミリーマートがクリエイティブを大切にしている会社だからこそだと思います」
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。

コンビニエンスウェアのステーショナリー。コクヨとの共同開発。

落合さんとファミリーマートが二人三脚で築いてきたコンビニエンスウェア。その広がりは今、日本を越えて海外へと広がっています。
「世界に発信できるようになったからこそ、責任をより強く意識するようになりました」と落合さんは語ります。
世界一、洋服を売るお店
2024年11月、コンビニエンスウェアは台湾ファミリーマートでの展開を開始しました。約4,000ある台湾の店舗の中で、現在は約700店舗で取り扱われています。日本に比べればまだ限られていますが、今後はさらに拡大していく予定です。
「日本発のブランドとして、海外でどうコミュニケーションしていくのかを考えることはもちろんですし、このまま展開が進めば名実ともに“世界で一番洋服を売る店”になります。しかも、基本24時間洋服を売るというのは、アパレル業界の中でも特殊な環境です。その中で、ファミリーマートというインフラを通して、洋服を通じて、どう生活を豊かにしていけるのか。そんなことを、ここのところずっと考えています」
Equally Beautiful (6850)
そして、展開する場所が増えれば、生産数も増え、廃棄のリスクも高まります。今はまだ大きな問題に直面してはいないものの、少しずつ対策は考えていると落合さんは続けます。
「コンビニエンスウェアのセールも行っています。廃棄される商品を減らすことに加えて、コンビニエンスウェアをより広めていくことも目的です。こんなにいいものがコンビニでも買えると知っていただけたら、売れ残りが減らせます。そういうことの積み重ねが、環境配慮へとつながっていくはずです」
役目を終えたコンビニエンスウェアを回収し、リサイクルすることも考えられますが、展開されている店舗数を考えると、まだ現実味はないと落合さんは言います。
だからこそ、できることを、一つずつ。
最後に、落合さんはこう締めくくりました。
「コンビニでの洋服づくりは、これまで誰も挑戦してきたことがありませんでした。だからこそ、まだまだやれることがあると感じています。これからのコンビニエンスウェアに未来にかける熱意や夢を、ファミリーマートという大企業と語り合える。こんなに心を動かされるプロジェクトは他にないと思います」
世界で一番、服を売る場所へ。コンビニエンスウェアの挑戦と責任。
コンビニエンスウェアがこれから、どんな文化を作っていくのか。そして、その時、地球環境とどう向き合っていくのか。その挑戦は、まだ始まったばかりです。
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writer
Equally beautiful編集部
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