廃車両を新車両へ生まれ変わらせる
9路線を運行している東京メトロは、主要な都心に張り巡らされ、通勤や通学だけでなく、観光客にとっても重要な足として活躍している。しかし、老朽化後の資源活用については、課題も残っている。
東京メトロでは現在、国内最大級の約2,700両以上の車両を運用しており、そのすべてがアルミニウム合金を使用している。軽量で加工しやすいアルミは車両の材料としてうってつけだ。従来より、東京メトロでは役目を終えた車両をアルミスクラップにし、カスケードリサイクルしている。
カスケードリサイクルとは、不純物量の多い低純度材へダウングレードするリサイクルのこと。性質の劣化・変化を伴うため元の元素に戻ることはないが、素材として再利用することができる。水平リサイクルにくらべ比較的容易に行え、品質は下がるが多くのものに幅広く展開できるために、リサイクルする際のコストが少ないといったメリットがある。
しかし車両の強度の確保は、安全な地下鉄運行のためには必須。高い精製品質が求められる東京メトロの車両リサイクルは、不純物の除去などが困難なことを理由に成分管理の比較的容易な鋳造材等へのカスケードリサイクルに限定されてきた。
今回締結された覚書は、よりサステナブルな社会の実現のため、車両の水平リサイクルを実現すべく7社が協力して研究開発を進めていくためのものだ。
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アルミニウムは原料となるボーキサイトから製造すると大量のCO2を排出する。水平リサイクルにより、廃車両をそのまま水平リサイクルとして車両に活用できれば、原料となるボーキサイトの使用量も減り、製造時のCO2も大幅に削減できる。
覚書には、2024年度から27年度までの期間で廃車となる東京メトロ保有車両の車体に使用されていたアルミスクラップを、ダウングレードさせることなく水平リサイクルし、車両構体の一部や車両内装部品へ循環利用するための技術検証を行う旨が記されている。将来的には鋳造用のアルミニウムを車両用のアルミニウムにも使用したい考えだ。
車やバスに比べ、走行時のCO2をまったく排出しない地下鉄は環境にやさしい交通手段のひとつだ。これに製造時に排出されるCO2を削減できれば、サステナブルな社会の実現に向けて大きな前進となる。東京メトロに限らず、他の鉄道会社も追従してほしいところだ。