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ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り

ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り

ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り

日本のコメ作りは今、いくつもの課題に直面しています。農家の高齢化や後継者不足。収穫量を左右する気候変動。そして、水田から発生する温室効果ガス・メタンの問題。皮肉なことに、農家を苦しめる気候変動の一因が、コメ作りそのものにも含まれているのです。そのジレンマに向き合うための一つの選択肢が、「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」です。

ビール酵母細胞壁由来の農業資材で、植物を育てる
ビール酵母は、ビールの製造過程で使われる酵母です。
アサヒグループは、90年以上にわたりビール酵母の研究を重ね、その酵母を「エビオス錠」(指定医薬部外品)をはじめとする製品に活用してきました。そしてアサヒグループホールディングス傘下のアサヒバイオサイクル社では、ビール酵母細胞壁を活用し、農業分野での社会課題解決に向け、事業展開しています。
※エビオス錠にまつわる詳細な情報はこちらから。
ビール酵母細胞壁とは、酵母エキスを抽出後に残る外殻のこと。活用が難しく、これまでは飼料として低単価で取引されてきました。
「エビオス錠のように、ビール酵母細胞壁にも付加価値を生み出せないだろうかと、研究を続けてきました。その結果、高温高圧(高い温度と高い圧力をかけた状態のこと)で分解することで、ビール酵母細胞壁がユニークな性質を持つ液体に変えられると分かったんです」
そう話すのは、アサヒバイオサイクル アグリ事業部長の上籔寛士さん。
ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り
「水熱反応処理後の液体の中に、通常は一瞬で消えてしまう不安定な物質(RCS:活性炭素種)が、大量に存在していることが明らかになりました。このRCSが植物に適度なストレスを与えることで、植物の成長スイッチが瞬間的に入るのです」
このメカニズムが特に力を発揮するのが発芽の段階。発芽阻害物質が抑えられ、発芽促進物質が増加することで、劣悪な環境での植物の生育が可能になると考えています。
それは、コメも例外ではありません。
ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り
コメが育たない土地で、コメを育てる
2020年、北海道網走市のとある農場でコメが収穫されました。その量、わずか茶わん二杯ほど。数字だけを見れば、些細なものかもしれません。しかし、これはとても大きな一歩でした。
なぜならば、寒冷地である網走は本来、コメの栽培には不向きだからです。
「始まりは、“網走の子どもたちに、網走で育ったコメを食べてもらいたい”という農家の方の想いでした。2018年頃から田んぼに直接稲を植える“陸稲(おかぼ)”の栽培を開始されたのですが、最初の二年間は上手くいかなかったと聞いています。水がない環境では稲の発芽や成長が不安定になるためです」(上籔さん)
そこで農家が着目したのが、ビール酵母細胞壁由来の農業資材でした。品種の切り替えと同時に、ビール酵母由来の農業資材を使用したところ、初めて稲に実が入ったのです。
「ビール酵母細胞壁(由来の成分)が、それまでの常識を変え得るものだという証明になりました。実際、年を重ねるごとに収量は増え、今では地元の小学校の給食の一部や飲食店に供給できるようになったと聞いています」(上籔さん)
ビールから始まる農業革新。ビール酵母細胞壁由来の農業資材で進化するコメ作り
ビール酵母細胞壁由来の農業資材は、節水型乾田直播栽培でも活用され始めています。節水型乾田直播栽培は、田んぼに直接種を撒き、最低限の水は必要ですが、水は張らずに稲を育てるというもの。通常の栽培方法とは異なり、代かき・育苗・田植えといった工程を省略できます。
さらに、節水・温室効果ガスの発生抑制などのメリットも。
陸稲と同様、水がない初期は生育が不安定になりがちですが、そこをビール酵母細胞壁由来の農業資材がカバーしているというわけです。
国内から世界へ、広がる可能性
ビール酵母細胞壁由来の農業資材は今、海外での活用も始まっています。
「2025年からアサヒバイオサイクルの社員がケニアでコメの栽培をサポートしているのですが、ビール酵母細胞壁由来を使用した畑では、84%収穫量が増えました。ブラジルでは大豆やトウモロコシでの活用も始まっています。」
そのすべてが水を使わない栽培方法というわけではありませんが、ケニアのような干ばつに苦しむ地域でもコメを育てられることは、現地の農家にとっては希望に光となり得ます。何より、水を極力使わない栽培はGHG削減に取り組む企業に大きな恩恵をもたらすことが期待されています。
「栽培は自然の中で行われるものなので、簡単ではありません。ですが、私たちの技術が社会課題を解決しうるものだと分かった以上、そこに取り組んでいくことが使命だと考えています」(上籔さん)
ビール製造の副産物として、かつては低い価値しか見出されなかったビール酵母細胞壁。90年以上の研究が、それを農業革新の鍵に変えました。環境負荷を減らしながら、農家の負担も軽減する。その可能性は今、世界へと広がり始めています。
本記事を読み込むうえで押さえておきたいポイントを、Q&A形式で整理しました。
Q1:節水型乾田直播栽培は、従来の米作りと比べてどれくらいコストを削減できるのですか?
A:投下労働時間が約70%削減、機械設備コストが40%以上削減されています。田植え機や育苗ハウスが不要になり、従来約70日間水の管理が必要でしたが、年間8日程度で済むためです。(埼玉県の生産者の事例より)
Q2:水を張らずに育てた米は、味に違いがあるのですか?
A:節水型と従来の水田栽培の食べ比べを行ったところ、判別がつかないレベルでした。分析センターでの食味分析でも、従来栽培と遜色ない評価が出ています。
Q3:なぜ水を張らないとメタンの排出が減るのですか?
A:メタン生成菌は嫌気性の菌で、酸素がない環境で活発に活動します。水田に水を張ると土中が酸素の届かない状態になり、メタン菌が活動して稲の茎を通じて大量にメタンが放出されます。水を張らなければ土が常に酸素と触れ合うため、メタン菌が活動できず、メタン排出を大幅に抑制できるのです。
writer
Equally beautiful編集部
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