三菱ケミカルのDURABIO(デュラビオ)は、植物由来でありながら高い耐久性を兼ね備えるバイオエンジニアリングプラスチック※ です。2012年の登場以来、すでにさまざまな製品に採用されてきました。
※植物などの再生可能資源を原料に、通常のプラスチックに求められる強度・透明性・耐久性を発揮するよう設計された“バイオ由来”の高機能プラスチックのこと。
プラスチックと切っても切り離せない社会の中で、DURABIOはこれから、どんな役目を果たしていくのか。
三菱ケミカルの田中さんに、お話を伺いました。
※植物などの再生可能資源を原料に、通常のプラスチックに求められる強度・透明性・耐久性を発揮するよう設計された“バイオ由来”の高機能プラスチックのこと。
プラスチックと切っても切り離せない社会の中で、DURABIOはこれから、どんな役目を果たしていくのか。
三菱ケミカルの田中さんに、お話を伺いました。
もっと透明に。純粋な探求心から生まれた新素材
「皆さんが普段生活の中で触れているプラスチックの素材にはいくつか種類があるのですが、そのなかにポリカーボネート(PC)樹脂と呼ばれるものがあります。耐久性と透明性に優れていて、自動車やOA機器、建築資材などに広く使われています。DURABIOは、そのポリカーボネート樹脂をより幅広く使えるように、もっと透明性を高められないか? という研究の中から生まれました」

三菱ケミカル株式会社 エンジニアリングプラスチック事業部 Auto-2営業グループ マネージャー 田中圭さん
そう話すのは、営業として日々DURABIOと向き合う田中さん。
DURABIOの名前の由来は、耐久性を意味するデュラブル(durable)とバイオポリマー(biopolymer)から来ています。その名の通り、バイオマス素材を使いながらも耐久性も実現したバイオエンジニアリングプラスチックです。
DURABIOの名前の由来は、耐久性を意味するデュラブル(durable)とバイオポリマー(biopolymer)から来ています。その名の通り、バイオマス素材を使いながらも耐久性も実現したバイオエンジニアリングプラスチックです。
開発のきっかけになった透明性も非常に優れています。

DURABIOのペレット(粒状のプラスチック素材のこと)。透明性が高く、肌の色が透けて見える。
そんなDURABIOの出発点となるのが植物のデンプンです。トウモロコシをはじめ、芋や麦などデンプンを含む作物なら原料にでき、そこからイソソルバイド(イソソルビド)を生成。それを化学プラントで合成したものが、DURABIOになります。
植物由来でありながら、生分解性を持たないのも特徴の一つで、耐久性に優れています。
植物由来でありながら、生分解性を持たないのも特徴の一つで、耐久性に優れています。
「開発当時は、バイオマス素材を活用しようという意図ではなかったそうです。もっといいものを作りたいと突き詰めていった先に、DURABIOが生まれたと聞いています。ただ、市場からすぐに受け入れられたわけではなく、販売を開始した当初(2012年)はなかなか苦労しました」
いつか生分解してしまうのではないか、植物由来で本当に大丈夫なのか。
今ほど環境意識が高くなく、環境素材への知識も浅かった当時は、そうした声も届いていたそうです。
今ほど環境意識が高くなく、環境素材への知識も浅かった当時は、そうした声も届いていたそうです。
しかし、DURABIOにはそんな逆風にも立ち向かえるだけのポテンシャルがありました。
"いいとこ取り"がDURABIOの強み
「DURABIOはその透明性を活かして、多様な色の再現が可能なんです。金型に溶かした樹脂を入れて取り出したものが、そのまま製品として使える。塗装の工程を完全にカット出来るんですよ。いわゆる塗装レスですね」

塗装レスのメリットは大きく三つ。通常の塗装工程のコストをすべてカットできること。インクなどの有機化合物の使用量を大幅に減らせること。作業工程の圧縮により、二酸化炭素排出量を抑えられることです。
「コストをカットしつつ、環境にも貢献できる。シンプルでわかりやすいですよね。ですから最初は、塗装レスを一つの売りとして色々な企業様にお話をさせていただきました」
この他にも、DURABIOには従来のプラスチック素材にはない様々な特性があります。
たとえば一般のポリカーボネート樹脂は優れた耐衝撃性で知られていますが、屋外に置くと黄色く変色してしまう、表面に擦り傷ができやすいといったデメリットを抱えていました。
たとえば一般のポリカーボネート樹脂は優れた耐衝撃性で知られていますが、屋外に置くと黄色く変色してしまう、表面に擦り傷ができやすいといったデメリットを抱えていました。
一方で、耐候性や耐傷つき性に優れるアクリル樹脂(アクリル板でお馴染み)は、強度面で課題があります。水族館のような50センチもの厚いブロックにすれば問題ありませんが、自動車のフロントグリルなど耐衝撃性や耐熱性を求められる分野では適応が難しいのです。
「DURABIOは、こうした従来素材の長所を併せ持ちながら短所を補う、バランスの取れた性質を持っています。日焼けもしませんし、衝撃にも強く、透明で美しい。さらに原料の一部は植物由来。営業しているからというわけではないんですが、本当に素晴らしい素材だなといつも思っています」

DURABIOが世に出てから、約13年。素材の素晴らしさと、田中さんたち営業の熱意で自動車メーカーを中心に、イヤホンや歯ブラシといったものにまで広がりました。そして、その広がりはまだまだ続いています。
13年の歩みが広げた新しい舞台
大阪万博の日本政府館に置かれた、約50脚のスツール。その表面は、深緑の美しいグラデーションで彩られています。
万博のために、3Dプリンタで製作されたもので、原料はもちろんDURABIOです。
万博のために、3Dプリンタで製作されたもので、原料はもちろんDURABIOです。

DURABIOに“藻”を混ぜてプリントされたスツール。
「3Dプリンタは線上に固まっていって、その積み重ねて立体物が出来上がります。そのため結晶性樹脂と呼ばれる収縮の大きい素材は取り扱いしづらいんですよね。その点DURABIOは収縮の小さい非晶性樹脂なので、3Dプリンタとの相性もいいんですよ」
成形後にもDURABIOの特性は発揮されます。まず、思った通りの色を出力できること。万博のスツールでは“藻”のパウダーを混ぜながら、その濃淡をコントロールしたそうです。さらに、表面に傷がつきにくいこと。
3Dプリンタで作られたものは脆弱で、デザイン性も乏しい。そんなイメージを覆せる可能性を秘めているのです。
「3Dプリンタはデータ一つあればいいですし、それこそ1個からだって作れます。今はまだ事例が多くはありませんが、3DプリンタにもDURABIOを勧めていきたいと考えています」
これからも広がりが期待されるDURABIO。ですが、どんなものもいつかは役割を終えるもの。素材としては非常に若いDURABIOも例外ではありません。いつか来る日を見据えて、少しずつ動き出していると田中さんは話します。

3Dプリンタ用のフィラメント
若い素材だから描ける、これからの未来
現在DURABIOの年間生産能力は8,000トン。その多くは自動車業界で使われています。
「塗装をはがす工程がないので、DURABIOはリサイクルにも向いた素材だと感じています。将来的に廃車から取り出したDURABIO製の部品をリサイクルし、新車に活用(参考:欧州ELV規制)するといったことも考えられます」
※ELV(End of Life Vehicle)規制:欧州連合が制定したELV指令に始まる廃車の適正処理とリサイクルを推進し、資源の有効活用を促す規制。
※ELV(End of Life Vehicle)規制:欧州連合が制定したELV指令に始まる廃車の適正処理とリサイクルを推進し、資源の有効活用を促す規制。
そのために、リサイクルの実験データを三菱ケミカルで集めることも視野に入れているそうです。
最後に、田中さんがDURABIOに込める想いをお話いただきました。
「環境に優しく、性能も通常のプラスチックに引けを取らないDURABIOは、世の中を変え得るものだと私は思っています。今よりもっと広がっていけば、きっと皆さんの暮らしにもいい影響を与えるはず。そのためにこれからもDURABIOと共に歩んでいきたいと思います」
今より、いいものを作りたい。
そんな純粋な探求心から始まった挑戦は、時代の流れと重なり合い、新しい価値を創造し続けようとしています。
そんな純粋な探求心から始まった挑戦は、時代の流れと重なり合い、新しい価値を創造し続けようとしています。
DURABIOがどんな未来を描いていくのか、これからも目が離せません。