ファミリーマートの日用品の棚が明るく華やいで見えました。そのソックスの色の配置はまさに「ファミリーマート」! それなのに、なぜか日本の人気ブランド「FACETASM(ファセッタズム)」の匂いがしました。そこで調べてみると、やはりデザインは「FACETASM」のデザイナー・落合宏理さんとわかり、EQUALLY BEAUTIFUL編集部が早速インタビューさせていただきました。今までのコンビニエンスストアに並んでいたソックスや下着とはまったく違ったデザインの裏にはしっかりと地球環境を考えたコンセプトが隠されていたのです。
EQUALLY BEAUTIFUL(以下「EB」と略) 今回は「ファミリーマート」の新しい衣料品ブランド、「Convenience Wear」のクリエイティブ・ディレクターに就任されたことを受けて、「これからの服づくりを考えるうえで必要なセンス」というようなテーマでお話を伺いたいと思っています。EBのコンセプトは「自分に良いことは、地球に良いこと」を掲げています。落合さんが手がける「Convenience Wear」のコンセプトである “自分を愛そう。いい素材、いい技術、いいデザイン。” に共通することは多いと感じています。EBとしてとても興味深い活動をされていると思い、今回インタビューをお願いしました。まず最初に伺いたいのですが、スタートはどんな感じだったのでしょうか?
落合宏理さん(以下「落合」と略) 「Convenience Wear」のお話は、新型コロナウイルスが広がる前くらいにいただきました。「FACETASM(ファセッタズム)」というブランドは、私たちのクリエーションやデザインが好きなコアなファン層に向けてやっていたので、ある程度好き勝手にやることができました。ですが、2016年のリオオリンピックとパラリンピックの閉会式に参加させていただいたことが意識を変えるきっかけになったのです。世界中の何十億といった人たちに見せる仕事をして、「FACETASM」のコアなファンに向けるのと同じ熱量で大多数の方たちに見せるクリエーションも、ファッションデザイナーとしてやるべきことだと考えるようになりました。「FACETASM」の信念を持ちつつも、同じ熱量で何かやれないかな、と思っていたときにファミリーマートさんとご縁があって、このプロジェクトが始まりました。足を踏み出すきっかけとなったのが、澤田副会長の「コンビニでおにぎりが売られた時、最初は否定的だった。それがいつの間にか、ライフスタイルに定着した。コーヒーも最初は否定的だったとしても、本当に美味しいコーヒーが生まれて、今ではみんなが朝買っていく。その中で、次は下着などの日用品をコンビニで作りたい」という言葉です。感銘を受けましたし、シンプルに面白いなと。自分もその一員として、参加していきたいというのがこの「Convenience Wear」のスタートでした。
EB そう言われると、確かにコンビニでおにぎりが売られ始めた当初は違和感がありましたし、コンビニのコーヒーが美味しいのだろうか? という懐疑的な見方をしていた気もします。ですが、おにぎりは日常に欠かせないものとなりましたし、コーヒーの味はどんどん進化していることも事実だと思います。つまり、落合さんもこうした常識からの、つまりはコロンブスの卵的なところからスタートしていったわけですね。
落合 ただブランドを立ち上げるだけではなく、今回は日本全国で売れるものに仕立てていかなければいけないという重要なミッションだったわけです(笑)。ブランド名からパッケージ開発、材料開発、ブランディングのすべてに携わらせていただきました。これだけでもすごく勉強になったと思っています。ものづくりとしての勉強だけではなく、コンビニ市場の現状を学べたのはまさに「青天の霹靂」とも言えるほどでした。
コンビニは1日1500万人が利用する巨大メディアだった!
EB コンビニ市場はデータ管理が徹底されているということはよく知られていますが、落合さんが感じられたコンビニ市場の現状はどんなものだったのでしょうか?
落合 私の出身は東京の板橋です。今も東京に住んでいて、東京のコンビニのことはなんとなくですが、わかっていたつもりです。ほとんど毎日一回は行きますしね。ところが、地方のコンビニの状況はまったくわかっていませんでした。今回ブランド化をするにあたり、フェーズ1、フェーズ2、全国展開という道のりだったのですが、まずフェーズ1は、大阪の150店舗。その後に成果が出て、フェーズ2で関西地区2,700店舗という具合に広がりました。このフェーズ2ですでに全国展開している大手の衣料品の店舗数より多いのです。
EB 今やコンビニは本当になくてはならない、そして、誰もが利用できる家庭の台所であり、日用品を揃える場であり、公共料金も払えて、役所の機能まで果たしています。それを数の上でも感じさせられますね。
落合 そうなんです。地方におけるコンビニは、よりその側面が強いと感じました。たとえば都会のコンビニだと店員さんとのコミュニケーションは最低限ですが、地方に行くと地元の方々と会話しているんですね。そうした地方のコンビニから都会のコンビニまで合わせて、全国約1万6,600店舗で「Convenience Wear」は展開されています。このスケール感は、服のディレクションをする上であり得ない数だと思っています。年間での利用者数は50億人。1日約1500万の人がファミリーマートを利用しています。
「使っていたら実はエコをいつの間にかやっていた」
EB 年間での利用者数が約50億人といったら、本当に一大メディアです!
落合 だからこそ、「Convenience Wear」を通して届けるメッセージが重要になると思っています。ですが、私たちが描くメッセージが複雑になればなるほど、メッセージを届けることが難しくなると思ったのです。今回も「エコロジー」や「サスティナビリティ」ということを伝えたいと思っていましたが、ひとつひとつの言葉は私たちでも難しいものなので、それらを理解していただくのは時間のかかることだと思いました。
EB 我々も安易に「エコロジー」や「サスティナビリティ」という言葉を使ってしまいますが、奥の深い意味を持っていますし、片仮名になっただけで、「よくわからない」となってしまう場合もあります。
落合 そこでまず考えたのは、時代に逆行しているかもしれないですけど、袋で覆うということ。コンビニは24時間営業であり、色々な方が出入りします。子どもたちも入ってきますし、雨が降っていることもある。汚れないようにパッケージは必要だと思ったわけです。
EB 時代に逆行とおっしゃいますが、ケースバイケースだと思います。コンビニでのパッケージは必要不可欠なものだと思います。
落合 必要不可欠であれば、それを逆手に取り、時代にあったパッケージに入れることを考えました。つまり、パッケージ=袋に入れて捨てさせない、再利用してもらえるようなデザインです。押し付けではなく、「使っていたら実はエコをいつの間にかやっていた」っていうことにしていかなきゃいけないと思ったのです。説明がなくても、いつの間にか参加して、いつの間にか社会に貢献しているということは、このプロジェクトにとってすごく良いんじゃないかなと思いました。「実はこれ、便利だからいっぱい使っている」っていう一言でどれほど環境に良いことができるのか、それは50億人利用するコンビニだからできることです。
EB 落合さんのお話、とても具体的で、知らなかったことも多々あり、参考になります。次回はパッケージへのアプローチをさらに伺っていきたいと思います。
落合 宏理(おちあい ひろみち)1977年 東京生まれ 。日本のファッションデザイナー。文化服装学院卒業。卒業後はテキスタイル会社に勤務。2007年「FACETASM」を立ち上げる。2011年には‘12SSコレクションをランウェイでコレクション発表。2015年にはアルマーニに招聘されアルマーニ/テアトロにてミラノメンズコレクション発表。2016年には第三回LVMH Young Fashion Designer Prizeで日本人初のファイナリストに選ばれる。世界から注目を集める日本人デザイナーのひとり。