(※1)化学的に合成したものではなく、人間の体内にある生体分子(酵素、ホルモン、抗体など)を応用して作られる医薬品。
TOP画像:協和キリン CSR推進部 環境安全グループの池田宗弘さん
TOP画像:協和キリン CSR推進部 環境安全グループの池田宗弘さん
電力消費由来のCO2削減を徹底追求
協和キリンではキリングループが掲げる「環境ビジョン2050」に則り、2050年までにバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量をネットゼロにすることを掲げ、中期的には2030年までにCO2排出量55%削減(2019年比)、2040年までに使用電力をRE100(※2)適合の再生可能エネルギー100%にすることを目指しています。(※2)「Renewable Energy 100%」の略称。企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブを指し、世界の企業が参加しています。https://www.env.go.jp/earth/re100.html
そのようななか、2020年には製薬メーカーとしていち早く、高崎工場で使用する電力を再生可能エネルギーへと転換(※3)しました。協和キリン CSR推進部 環境安全グループの池田宗弘さんは、こう話します。
(※3)高崎工場が当初導入したのは、東京電力が提供しているアクアプレミアム。水力100%(CO2フリー)とみなされる特別なプランです。ただしRE100の適合基準の変更に伴い、将来的にはアクアプレミアムがRE100に適合しなくなることから、現在では別のRE100適合プランに変更しているそうです。加えて、協和キリンの各工場では、太陽光発電による創エネ施策も行っています。
(※3)高崎工場が当初導入したのは、東京電力が提供しているアクアプレミアム。水力100%(CO2フリー)とみなされる特別なプランです。ただしRE100の適合基準の変更に伴い、将来的にはアクアプレミアムがRE100に適合しなくなることから、現在では別のRE100適合プランに変更しているそうです。加えて、協和キリンの各工場では、太陽光発電による創エネ施策も行っています。
協和キリン高崎工場
高崎工場内のクリーンルーム
「バイオ医薬品の製造では、まず薬のもととなるタンパク質を生産する細胞の培養が必要です。この細胞培養の工程は、定められた温度や湿度などで管理・コントロールされており、また厳格に管理された清浄度を満たしていることも必須条件。したがって常に空調管理を行い、フィルターを通してクリーンな環境を保たねばなりません。そのため季節を問わず電力消費が嵩むという背景があるんです」
加えて、これからの製薬業界は、製品のバリューチェーンすべてを通して、環境負荷への影響を考える必要があると、池田さんは指摘します。なかでも鍵を握るのは、Scope3(※4)。つまりサプライチェーンにおけるCO2削減対策です。
(※4)Scope3とは? https://equallybeautiful.com/glossary/270
(※4)Scope3とは? https://equallybeautiful.com/glossary/270
「キリングループは、2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ゼロを目指していると先述しましたが、協和キリンにおいてはScope3のCO2排出量が、実はバリューチェーン全体のCO2排出量の8割を占めています。そのうち、委託製造に関する工程での排出が3分の2となっているのです」(池田さん)
つまりCO2排出量を効率よく削減するためには、この委託製造先でのCO2排出量を改善しなければいけません。とはいえ、これは製薬メーカー側の自助努力で、解決できる問題ではありません。しかもこの構図は、協和キリンに限らず、多くの製薬メーカーで当てはまるのだそうです。
サプライヤー側には個別の事情があります。製造するアイテムによっても、乗り越えるべきハードルの高さは異なるでしょう。協和キリンでは、サプライヤー各社が抱える状況に個別に対応していき、少しでも目標に近づけていく努力を重ねたいとしています。では、業界全体の動きはどうでしょうか?
「世界的製薬メーカー 10数社が連携し、業界全体で問題解決に向けたアプローチをはじめました。たとえ競合ブランドであっても、委託製造先は同じということもあるのです。したがって、各メーカーが個別に委託製造先と交渉するよりも、業界全体で動いたほうがスムーズということもあります」(池田さん)
いずれ協和キリンも、そうした連携に加わることを検討しているそうです。独善的に1社での達成率を高めるのではなく、社会課題に対する業界全体を挙げての協業が模索されているとは、素晴らしいです。
産業廃棄物の再資源化にも注力
協和キリンは、廃プラスチックの再資源化にも積極的に取り組んでいます。これまで産業廃棄物に関しては、ゼロエミッションを達成することが目標だったと言います。
「ゼロエミッションに対する私たちの定義は“最終埋立処分量を廃棄物発生量の0.1%以下にすること”です。つまり再資源化を進めて、埋め立て処分する廃棄物をなくすということですが、成果としてはすでに毎年ゼロエミッションを達成している状況になっています。ただしその内訳を見ると、廃プラスチックについてはその多くをサーマルリサイクルに頼っているのが現状。そこからの脱却が直近の課題と捉えています」(池田さん)
サーマルリサイクルとは、燃焼による熱を発電などに再利用する手法です。確かにリサイクルにはなっていますが、実はエネルギーロスが大きく、あまり効率的とは言えませんし、何よりも石油資源の浪費やCO2の排出につながります。したがって「サーマルリサイクルからマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルへと推し進めていくことを検討している」と、池田さんは話します。
ここでEqually Beautifulが注目しているのが、薬の包装材。製薬メーカーでは、薬を提供するのにPTP(press through pack)包装シートを使用しています。プラスチックシートにアルミ箔を貼り、薬を押すとアルミ箔から薬が押し出される、あのシートです。
PTPシート。※画像はイメージです© PIXTA
PTPシートは薬剤を清潔に保ち、湿気から守る大切な役割があります。したがって品質保証の面から法規制が設けられているので、簡単に別のパッケージへと切り替えることができません。また、薬を押し出す面にはアルミ箔が貼り付けられているので、そのままではアルミとプラスチックの混合物です。
「それを分離する技術を開発した企業が、ついに商業化に乗り出しました。私たちもその企業にコンタクトを取り、再資源化に向けた処理手段として活用できないか調査・検討を開始しています」(池田さん)
アルミとプラスチックを分離する技術は、2010年代半ばに開発され、ここ数年で廃棄物処理(再資源化)への利用も始まりつつある状況だそうです。その背景を池田さんはこう推察します。
「それまでは、日本ではどこかサーマルリサイクルでいいという認識があったのだと思います。でも、リサイクルとは、やはりマテリアルとして再資源化するのがリサイクルであり、プラスチックはプラスチックに戻して使うという考え方が広がってきたと思います」
もうひとつ、協和キリンが手掛けているのが、プレフィルドシリンジ(Pre-filled Syringe)。注射用の薬剤は、かつてはバイアルと呼ばれるガラス瓶に入れられ、それを医療現場にて注射器に吸い取っていましたが、その薬剤をはじめから使い捨て注射器に詰めて届けるのがプレフィルドシリンジです。正確な量の薬剤があらかじめ充填されているため、調整時のミスを減らすことや、薬剤の管理の簡便化など、医療従事者に配慮した形態です。
※画像はイメージです© PIXTA
「注射器にあらかじめ薬剤を充填しておくことで、ガラス瓶が不要となり、ガラス材料が削減できます。また、プラスチックはガラスよりも軽いので、輸送時のコスト、CO2削減にも繋がります。トータル的には環境に対してプラスと判断しました」(池田さん)
協和キリンでプレフィルドシリンジを採用した薬剤とは、ホルモン剤関連です。バイオ医薬品のなかには、シリンジの壁に吸着して、使用に向かないものもあるそうですが、「今できることとできないことを確かめながらも、できる一歩を確実に進めている」と、池田さんは話します。すでに流通している薬の包装を変えることは、データの取り直し、申請の出し直しなど時間とコストがかかり対応が難しい場合が多いですが、新規に上市(じょうし)する製品などでは包装材を従来のプラスチックではなく、バイオマス由来プラスチックの採用を検討するなど、製薬メーカーは普段はユーザーに見えないところでも努力を重ねているのです。
製品輸送の効率化により、CO2削減を促進
もうひとつ、協和キリンが取り組んでいるのが製品輸送の効率化です。これはCO2排出量低減にも直結します。池田さんはこう話します。
「CO2排出量全体に対して輸送からのCO2排出量の占めるウエイトは大きくないとはいえ、こちらも重要な取り組み課題。すでに他社との共同配送も行い、使用トラックの台数を減らしています。また出荷タイミングを緻密に調整して、1台のトラックに積載する荷物を増やし、輸送回数を減らすことも手掛けています」
また協和キリンは昨年末、業界他社に先駆けて営業車(社有車)からガソリン車を完全撤廃しました。国内に1000台程度存在する営業車について、100%ハイブリッド化を達成したそうです。池田さんは、こう続けます。
「営業車からも環境負荷を減らしていきたいというのは、早くから考えておりました。営業スタイルの見直しも含め、営業車の台数も過去と比べると減らしてきてはいますが、それでも私たちの規模のメーカーでも1000台程度の台数があります。今後はPHV、EVなど、より環境性能の高いものに順次切り替えていくことも検討しています」
以上、CO2削減、廃プラスチックの再資源化、物流の最適化と、協和キリンの環境対策を見てきましたが、ほかにも地域行政などと連携して多彩な活動を行っているそうです。
協和キリン高崎水源の森づくり活動。高崎工場の従業員の皆さま、そのご家族、キリングループ各社の関係者さまも参加。水源地域に出向き、下草刈りや間伐・植林作業を毎年100人規模で継続して実施しているそうです。
規制が厳しい製薬業界でも、環境対策は進んでいます。人の命を守るために、薬剤の品質保証は最優先事項であり、そのために法規制が厳格に行われています。そのような難しい状況のなかでも、どうしたら社会課題を乗り越えられるのかを考え、サプライチェーン全体や業界全体を巻き込みながら、積極的に取り組む姿勢がありました。