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医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始

医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始

医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始

プラスチック資源循環促進法に伴い、日本国内では生活者だけではなく製品の設計や製造、使用後の再利用まで、プラスチックを資源循環させる意識が高まっている。しかし現状では、使用が拡大している医薬品包装材の再生利用ができていない。そこで製薬会社が中心となり、回収・リサイクル・CO2削減等の取り組みを開始し、持続可能な社会の実現に向けての貢献を進めている。

生活者の意識を高めるプロジェクトから環境に配慮した取り組みを開始し、持続可能な社会の実現へ貢献。
私たちの生活はプラスチックに囲まれている。暮らしの中で周りを見渡せば、食品を保護するための包装紙やトレイ、ペットボトル、ビニール袋など、その種類は多岐に渡る。
環境問題やリサイクルを考える時、話題に上りやすいのはこうしたプラスチック使用製品。一方で、あまり話題にもならずこれまでもリサイクルが活発に行われてこなかったものの、年間1万3000トンが生産、多くが廃棄されているプラスチック使用製品がある。薬局などで処方される薬を保護する、医薬品包装材だ。
2022年4月より「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行され、生活者がプラスチックの使用を減らすだけではなく、設計から製造、そして使用後の再利用まで全てのプロセスで、プラスチックを資源循環していく意識が高まり、法律上では自治体主導の回収やリサイクルも可能になった。
しかし現状では、回収・リサイクルされるものとして、ハンガーに代表される樹脂単一素材の廃棄物が多くを占めており、薬の包装材であるプラスチックとアルミでできたPTPシートはリサイクル資源としての認知が低く、ペットボトルなどのように多くの回収・リサイクルができていない。PTPシートは、医療品包装材として必要不可欠である特性から削減が難しく、さらに今後も高齢化の進展に伴い使用量の増加が見込まれている。
医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始
そこで製薬会社の第一三共ヘルスケアは、2022年10月より「おくすりシート リサイクルプログラム」を実施し、開始から約半年が経過したことを踏まえ実証実験の途中結果を発表した。
「おくすりシート リサイクルプログラム」は、使用済みのPTPシートを回収・リサイクルし、生活者からPTPシートがリサイクル資源であることの認知を高め、資源として循環する仕組みを確立することを目的とした日本初の生活者参加型プログラム。回収されたPTPシートは、シートのプラスチックとアルミニウムを分離後、各々リサイクル処理され、新たなリサイクル製品として生まれ変わる仕組みだ。
プログラム開始以降、生活者をはじめ関連業界や教育機関等からの反響が大きく、開始時に目標回収量を10万枚としていたところ、実施期間の約半分で目標の約3倍を達成。回収拠点についても、目標の30拠点を上回り、40拠点に設置することができたと報告している。
医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始
今後新たな目標として、回収量を開始当初の5倍にあたる50万枚、回収拠点数を2倍の60拠点に定め、資源循環の促進における活動を発展させていく。
また、医薬品メーカーの中外製薬など日本の製薬会社とプラスチック製品メーカーの住友ベークライトは共同で、医薬品の包装材を環境配慮型のものに切り替える取り組みを進めている。
中外製薬は、2022年よりPTPシートのアルミ部分や注射剤を密閉して保存する包装に再生ペット素材を活用するなど、環境への負荷を軽減する取り組みをスタートさせ、住友ベークライトは、従来の石油由来の包装材に比べて約3割のCO2削減効果が見込まれるバイオマスプラスチックを使った包装材を開発した。
開発した包装材は、原料の50%以上にバイオマスプラスチックが使用されており、環境負担低減が期待できる。そして薬の包装材として重要とされている、薬を酸素や異物から守る高い性能も保たれることに確信を持ち、中外製薬は新しい包装材へ順次切り替えを始めた。
さらに錠剤を入れるプラスチックボトルもバイオマスプラスチックを9割以上含むボトルに変えることを発表。コスト面の課題はあるものの、回収されて焼却する際にCO2を抑えられるバイオマスプラスチックを使用すれば、環境に与える影響を低減することができる。
医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始
これらの包装材を多くの製薬会社が採用を増やすことでコストを抑えながらの普及が進められ、業界全体で持続可能な社会の実現に貢献することが可能となる。
一方で、製薬業界の枠を超えた取り組みもスタートしている。
製薬会社の武田薬品、オリックスグループの使用製品回収・リサイクルを提供するオリックス環境、貨物鉄道会社のJR貨物の3社が、武田薬品が製造する医療用医薬品の製造過程で生じるPTPシート廃材のリサイクルとその輸送における環境負荷低減に向けての取り組みを2023年6月より開始。
武田薬品がオリックス環境に委託する『廃棄物処理委託によるPTPシート廃材の再生利用(マテリアルリサイクル)』は、製薬企業としては国内初の試み。オリックス環境はプラスチックとアルミニウムを完全に剥離し、再生利用が可能であることを実証し、武田薬品の工場から排出される年間約101トンのPTPシート廃材のうち約95%にあたる約96トンを再生利用する予定だ。
また、PTPシート廃材の輸送をこれまでのトラック輸送から、JR貨物の環境負荷の小さい貨物鉄道輸送サービスへ切り替え、CO2排出量の削減も図る。
医療品包装材が及ぼす環境負荷の低減へ。製薬会社が中心となり資源循環等の取り組みを開始
3社は再生利用およびCO2排出の少ない輸送手段への切り替えにより、循環型社会への貢献に加えて、CO2排出量の削減も目指す包括的な取り組みを進めていく。
私たちの日常生活でよく利用するペットボトルやビニール袋などのプラスチックに比べて回収・リサイクルが多くできていない医薬品包装材。しかし、製薬会社を中心とした取り組みは着実に資源循環の促進や環境負荷低減への貢献を進めている。
今後もニーズの増加が見込まれている医薬品包装材。これからの更なる環境負荷低減に対する取り組みと動向に期待したい。
writer
Equally beautiful編集部
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