そんな中、世界第2位のファストファッション企業H&Mは、様々な環境配慮の取り組みを進めている。その一つが、CIRCULOSE®(サーキュロース)という素材だ。100%廃棄繊維から作られる、革新的な素材である。
この素材を開発したのは、スウェーデンの企業Renewcell(現Circulose)。2012年の創業以来、H&Mは長年にわたってこの会社を支援してきた。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。
環境への責任と企業経営の間で
ファッション業界の廃棄問題は深刻だ。世界で年間9200万トンの衣類が廃棄され、2030年には1億4800万トンに増加すると予測されている。特にファストファッションは「大量生産・大量廃棄」の象徴として批判を浴びてきた。
H&Mも例外ではない。手頃な価格でトレンドファッションを提供する一方で、環境負荷の大きさを指摘され続けてきた。そんな状況の中、同社は2017年に大胆な目標を掲げた。「2030年までに再生可能素材100%」「2040年までにクライメートポジティブ※を達成する」というものだ。
当時のH&M CEOカール・ヨハン・パーソン氏は、この複雑な立場をこう表現している。「環境への影響は減らさなければならない。同時に、我々は雇用を生み出し続け、経済成長とともに訪れる全てのことを手に入れなければならない」
利益と環境配慮。この二つのバランスを取ることが、いかに困難かを物語る言葉だった。

12年間続いた、ある素材への挑戦
CIRCULOSE®との出会いは、H&Mの環境への取り組みが本格化し始めた時期と重なる。2012年にRenewcellが設立されると、H&Mは早期からパートナーシップを築いた。2017年には投資部門「CO:LAB」を通じて同社に投資し、2020年3月にはファッション業界で初めてCIRCULOSE®を採用した。
CIRCULOSE®は、使用済みの綿製品を化学的にリサイクルして作られる溶解パルプだ。この技術により、従来は廃棄されていた古着が、ビスコースやリヨセルといった高品質な繊維に生まれ変わる。バージン素材と変わらない品質でありながら、環境負荷を大幅に削減できる画期的な素材だった。
2020年、H&MとRenewcellは5年間にわたる大規模な供給契約を締結した。「数百万着の衣料品を生産するのに十分な量」という規模での合意は、業界初の試みだった。
※クライメートポジティブ:企業活動で排出するCO2よりも多くのCO2を除去・削減し、気候変動に対してプラスの影響を与えること。
※クライメートポジティブ:企業活動で排出するCO2よりも多くのCO2を除去・削減し、気候変動に対してプラスの影響を与えること。
理想と現実の狭間で
しかし、理想と現実の間には大きな溝があった。
2024年2月、Renewcellは破産を申請した。資金調達に失敗し、事業継続が困難になったのだ。H&Mは確かにRenewcellの主要株主の一つだったが、十分な支援ができなかったという現実があった。
短期的な収益性への配慮、株主への責任、そして環境への配慮。企業としての現実的な判断が求められる中で、H&Mは完璧な選択ができなかった。それは、多くの企業が直面する現実でもある。
歩みを止めない理由
Renewcellの破産から数ヶ月後、新たな展開が訪れた。スウェーデンの投資会社Altorが同社の残存資産を買収し、「Circulose」として再出発することが決まったのだ。そして2025年、H&MグループはこのCirculoseと新たな戦略的パートナーシップを締結した。
「次世代素材への投資は、2030年までに100%の素材をリサイクルまたは持続可能な方法で調達するという我々の目標達成に不可欠です」H&MグループのCecilia Strömblad Brännsten氏はこう語る。
一度の挫折を経てもなお、H&Mは廃棄物から生まれる素材との歩みを続けている。それは、2030年までに使用素材の100%をリサイクルまたは持続可能な方法で調達するという目標を実現するために不可欠な選択だった。
ささやかな希望

一度の挫折を経てもなお、H&Mは廃棄物から生まれる素材との歩みを続けている。それは、2030年までに使用素材の100%をリサイクルまたは持続可能な方法で調達するという目標を実現するために不可欠な選択だった。
CIRCULOSE®が店頭に並ぶとき、その服の背景には廃棄された古着があり、長年の技術開発があり、企業の葛藤と決断がある。完璧ではないかもしれない。それでも、より良い明日を信じて歩み続ける人々の想いが、そこには確かに息づいているはずだ。