性能の追求と環境配慮は相反しない。ナノケアドライヤーの ものづくり
その中で、美容家電メーカーも、環境に配慮した製品づくりへの取り組みを始めています。
パナソニックビューティーのヘアードライヤー「ナノケア EH-NA0J」は、新色のミストグレーで、植物由来の塗料であるバイオマスペイントを採用(※1)。さらに包装材 のプラスチック使用量を約95%削減しました(※2)。製品開発の背景をお聞きしながら、美と環境の関係について考えていきます。
※1:石油由来成分に替えて植物由来成分を10%以上配合した塗料
※2:パナソニック 2022年発売EH-NA0J-Aとの包装材全体に占めるプラスチック使用量の比較(パナソニック調べ)
「ナノケアドライヤー に限ったことではないのですが、私たちが意識しているのは“お客様”のために、よりよいものを開発することです」
そうお話しいただいたのは、パナソニック技術部の西田さん。新卒でパナソニックに入社以来、15年間をドライヤー開発に捧げてきました。
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビューティ商品部 ヘアケア商品設計課 課長 西田 篤史
「ナノケアドライヤーでは一貫して乾燥性能を追求してきました。乾燥性能を向上させれば、使う時間が短くなります。つまり、省エネに繋がるわけですね。加えてEH-NA0Jでは本体の小型化にも取り組みました。ドライヤーは手に持って使うものなので、本体が小さくなれば負担が軽くなり、製品に使用される素材も減ります」
左がEH-NA0J、右が 従来品のEH-NA0Gを分解したもの。写真に写っているのはヒーター部分。EH-NA0Jでは従来の半分ほどになっていることが分かる。
ナノケア EH-NA0Jが実現したのは、約27% もの製品体積の削減と、乾燥性能の向上。家電製品の宿命ともいえる性能の向上を実現させつつ、環境配慮をも両立させているのです。
「ナノケアドライヤー のこだわりは、速乾性と美しさの両立にもあります」
西田さんに続いて、ナノケアドライヤー のアイデンティティとも言えるナノイーについてお話しいただいたのは、ビューティ・パーソナルケア事業部の巽さん。
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビューティブランドマネジメント部 ビューティ国内マーケティング課 巽 敦子 (毛髪診断士)
「 ナノイー(※3)は、空気中の水分をドライヤーの中に集めて高電圧をかけ微細化、すごく細かい状態になったものです。 そのナノイー が髪の内側まで浸透していくことで、髪がうるおい、美しく まとまります。EH-NA0Jは水分発生量が従来のナノイーの18倍(※4)に増えた“高浸透ナノイー”を搭載、髪のまとまりがさらに向上し、より美しい仕上がりを実現しています」
※3:ナノイーとは、パナソニックが開発した微粒子イオンの技術。ヘアケア商品・空気清浄機・冷蔵庫などにも搭載されています
※4:ナノイーと高浸透ナノイーとの比較(当社調べ)
ナノイーで髪はもちろん、地肌も肌もうるおいケアできます。美を追求しながらも、環境への優しさを忘れない。そんな眼差しを、ナノケアドライヤーから感じます。
そして、ナノケア EH-NA0J-H ミストグレー(以下、ミストグレー)はさらに地球に優しい仕上がりに。
ミストグレーの発売にあたって、西田さんたちが取り組んだことは二つ。その一つが、家電業界では先駆的な試みとなるバイオマスペイントです。
バイオマスペイントとは、植物由来の成分を使用し、石油由来成分を削減した環境配慮型の塗料。建築・自動車業界などの分野で活用され始めています。
「バイオマスペイントの採用を考え始めたのは、2022年の秋ごろ。SDGsという言葉が社会に浸透し始めたタイミングで、塗装を見直してみようと思ったのがきっかけでした。複数のメーカーにあたったところ、バイオマスペイントの存在を教えていただいたんです」(西田さん)
バイオマスペイントの採用を決めた西田さんですが、家電品への採用例は当時なく、その道のりは決して平坦ではなかったそうです。
「環境には優しいのですが、通常の塗料と比べると剥がれやすいという問題がありました。ドライヤー使用中の熱は、95℃近い高温です。そんなドライヤーの使用環境にも耐える、耐摩耗性、耐薬品性と、マット調の独特の質感との両立がもっとも苦労した点ですね。お客様に安心して使っていただける品質を確保するため、何度も試行錯誤を重ねました」(西田さん)
結果、ミストグレーでも従来と変わらない使い心地と耐久性を実現。環境に配慮した素材を使うとき、時に性能が落ちることもあります。しかし、ミストグレーでは他の色と性能や条件を全く変えることなく実現することができました。
奥がミストグレー。通常の塗料と同様 仕上がりになっている。
パッケージ・包装材にもこだわりを。プラスチック使用量の大幅削減
ミストグレーの発売にあたり、もう一つ取り組んだのがパッケージや包装材の見直しです。その中でも大きかったのが、緩衝材の変更。
従来はプラスチックの緩衝材を使用していましたが、パルプ製に切り替えたのです。
とはいえ、単純に素材を切り替えて終わりという話ではありません。
「例えば、紙(パルプ)製の緩衝材は厚みがあって重ねにくいため、プラスチックよりも保管スペースを取ってしまうんです。工場と連携することで量産体制は整えられましたが、コストなど課題はたくさんありました」(西田さん)
ミストグレーを保護する緩衝材。強度はプラスチック製 のものと変わらないという。
緩衝材を変更することでプラスチック使用量を約95%削減(※5)しましたが、残りの5%は「まだ課題があります」と西田さん。
※5:パナソニック 2022年発売EH-NA0J-A(ディープネイビー)との包装材全体に占めるプラスチック使用量の比較(パナソニック調べ)
「本体を包む薄い包材は従来のままです。これは紙の摩擦によって発生する微細なゴミがナノイーの吹き出し口に入るのを防ぐため、また製品の傷付きを防止するためです。 将来的には、この包材もバイオマス由来のものに置き換えられないか検討中です。ただ、強度やコストの面でまだ課題があり、現時点では採用に至っていません」(西田さん)
環境に配慮する上で直面する現実を見つめつつも、今出来ることを一つずつ実現していく。その姿勢は、多くのメーカーで家電開発のスタンダードになっていくのかもしれません。事実、パナソニックビューティーチームでは意識が変わってきたと巽さんは言います。
髪にも、地球にも優しい。ナノケアドライヤーが描く未来
「パナソニックビューティーではこれまでも、省エネや小型化などの環境配慮に取り組んできました。ただ、製品ごとに独自に動いていて、チームとしてのルールはなかったんです。この製品をきっかけに“新製品では可能な限りプラスチックの使用量を減らす”などのルールを定めて見える化するようになったり、一つずつステップを踏む体制ができたと思います。これはとても大きな前進だったと感じています」(巽さん)
「開発者の立場としては、“良い製品を作ること”を重視していくことに変わりありません。少し前までは、性能を追求していくことだけが良い製品開発の定義でした。ただ、時代も変わり、環境配慮あってこその開発に変わってきました。その両立が不可能ではないことを、このミストグレー で示すことができたのではないでしょうか」(西田さん)
消費者の意識も変わりつつあります。西田さんがパナソニックに入社した15年前、環境に配慮した製品への関心はそれほど高くありませんでした。この15年間で社会の状況は大きく変化し、特に若い世代を中心に環境に配慮した製品への関心が高まってきました。
“環境に優しい”が、一番の購入の動機になる未来も遠くないのかもしれません。そんな未来のために、パナソニックグループは企業市民活動として60年 以上前から社会貢献運動を続けています。活動内容は時代の流れに合わせてテーマは変化していて、現在は河川ごみの清掃活動ボランティアなどの環境保護活動に、より一層注力しています。
また、ミストグレーを含むナノケアドライヤー販売の一部を海の保全活動に取り組む環境保護団体に寄付。良い製品が売れると、海が守られる循環を作っています。
そして、その循環の始まりには、“美を保つこと”という、根源的なテーマがあります。
「ナノケアドライヤーは何よりも髪を美しくすることにこだわっています。ナノイー自体も空気中の水を利用した優しい技術。髪にも、肌にも、地肌にも、そして地球にも優しいナノケア。それが、私たちが目指すものです」
小型化、省エネ化、バイオマス素材の採用、包装材の見直し。一つ一つの歩みが折り重なり、“髪にも、肌にも、地肌にも、そして地球にも優しいナノケア”はこれからも進化を続けていくのでしょう。