FEATURE

"赤い肉"は新鮮じゃない? 住友ベークライトが挑む、日本の食卓革命

"赤い肉"は新鮮じゃない? 住友ベークライトが挑む、日本の食卓革命

"赤い肉"は新鮮じゃない? 住友ベークライトが挑む、日本の食卓革命

スーパーマーケットの食品売り場に並ぶ、“赤い”肉。その赤さが新鮮さの証拠だと思っている方は多いはずです。ですが、本当に新鮮な肉はまったく異なる色をしています。 今、私たちの食卓に“本当に新鮮な肉”を届けようとしているのが、住友ベークライトの『おいしさスキン』です。食品の包装が日本の“食”をどう変えていくのか、お話を伺いました。

本当に新鮮な肉はくすんだ色をしている。『おいしさスキン』で変わるこれまでの常識
「くすんだ色に思われるかもしれませんが、これが本来の肉の色なんです」
そう言って住友ベークライトの田中さんが取り出したのは、肉の形に沿ってぴったりとパッケージングされたトレーでした。皮膚で包み込むような特性を持つ、こうした包装材は“スキンパック”と呼ばれています。欧米では早くから普及しましたが、日本においては『おいしさスキン』を中心に広がりを見せ始めています。
『おいしさスキン』で包まれた肉の特徴はなんといっても、その色。くすんだ赤色で、スーパーの店頭ではあまり見かけない色味です。
Equally Beautiful (5340)

本来の肉の色。

「日本では鮮やかな色をしたお肉が美味しくて新鮮だと思われがちなのですが、実は違うんです。あれは肉が酸化した色なんですよ。『おいしさスキン』でパッケージングされたこの肉の色が本来のもので、開封すると皆さんが見慣れた“赤色”になります」
つまり、これまで私たちが新鮮だと思っていたあの赤い色は、酸化して劣化が進んだものだったのです。
『おいしさスキン』の特徴は、独自のフィルムがもつ驚異的な追従性。追従性というと少しわかりにくいかもしれませんが、『おいしさスキン』においてはモノをぴったりと包み込む性能のことです。肉はもちろんのこと、尖った画鋲や柔らかい餅まで密封することが出来るのだとか。さらにフィルムには酸素を遮断する層が含まれているので、一般的な食品トレーや真空パックよりも更に食品を長持ちさせられます。
「私たち住友ベークライトはプラスチックメーカーとして、これまで医薬品や食品を保護するフィルム・シートを販売してきました。身近なところで言うと、ハムやソーセージを保護するバリアフィルム※も開発しています。バリアフィルムの市場は広がっていて、コンビニで売っている焼き魚などにも使用されています。ただ、食品業界を見渡してみると、スーパーの精肉にはバリアフィルムが使われていませんでした」
※水蒸気や酸素を遮る性能を持ったフィルム。
 (5341)

住友ベークライト株式会社 執行役員 フィルム・シート営業本部 本部長 田中 厚さん

これまで住友ベークライトが培ってきた技術を投入し、肉の鮮度を保つバリアフィルム――のちの『おいしさスキン』の開発に住友ベークライトが着手したのは2012年のことでした。
『おいしさスキン』に込められた、おいしさを保つための技術
『おいしさスキン』のバリアフィルムは5つの層から構成されています。その中でも重要なのが、耐熱加工に優れたLDPE(低密度ポリエチレン)、酸素を通さないEVOH※、保護対象への密着性はION、開封のしやすさはEVA(エチレン酢酸ビニル)が実現します。。
プラスチックメーカーとして長年の実績を積んできた住友ベークライトは、早い段階でこの五層構造を実現しました。ですが、完成に至るまでには二つの障壁があったそうです。
※エチレンビニルアルコール共重合樹脂。酸素を含めたガスに対するバリア性に優れるため、食品の保存するためのフィルムによく使用される。
Equally Beautiful (5342)

住友ベークライトの技術とこだわりが詰まった『おいしさスキン』。肉のドリップもしっかり閉じ込める。

「肝心の追従性を詰め切れなかったことが一つ。そしてもう一つが、日本の市場の関心の無さでした。従来のプラスチックトレーとはまったく異なる見た目でしたし、当時はそこまで食品の保存性に気を配る必要がなかったことが原因ではないかと考えています。開発を一時停止せざるを得なかったのですが、2016年頃に潮流が変わり始めました」
2016年といえば、SDGsが正式発効された年です。これを機に、多くの企業が環境への意識を高めていきました。フードロスにも改めて目を向けられるようになり、スキンパック普及への糸口が生まれたのです。
「開発を停止した際に課題となっていた追従性は、IONという層が担っています。性能的には2016年の時点でも十分なものではあったんです。ただ、肉のおいしさをとじこめるための、最後の一歩が足りなかった」
Equally Beautiful (5343)
「それを解決したのが、“架橋”という技術です。光や熱などのエネルギーに反応して、分子同士が化学結合して網目構造に変化する…伸びてしっかり縮むゴムのようなイメージですね。『おいしさスキン』では熱で温め、溶着する時に空気を抜いて真空状態を生み出します。その時、架橋技術が施されたフィルムだと、分子同士がしっかり手を繋いで、綺麗なフィット感を生み出せるんです」
2018年には現在の『おいしさスキン』のベースとなるスキンパックが完成。2020年には『おいしさスキン』の商標登録を行い、スーパーの精肉市場へと足を進めていくことになるのでした。
『おいしさスキン』が世に出てから4年間が経過した今、当初スキンパックに興味を示さなかった市場はどのように変化していったのでしょうか。
プラスチックから生まれる、“食”の新しい可能性
「『おいしさスキン』の強みは、肉のドリップを出さずにパッケージングできる点にあります。ドリップは細菌を発生させやすい環境を作ってしまうため、味はもちろんのこと、保存期間も変化してきます。そうなると、肉の旨味に劇的な変化が生まれてくるんですね。事実、第三者機関に調査してもらったところ、『おいしさスキン』で保存された肉はアミノ酸を豊富に含んでいるという結果が出てきました」
市場にお披露目した2020年当初は、取引先に認知してもらうところからスタートした『おいしさスキン』。今ではおいしさを長持ちさせられるというメリットが知れ渡り、当時とは比較にならないほどの認知度を獲得しているそうです。
ですが、より市場に広まるために重要なのは、消費者からの理解です。そこに課題を感じつつも、「実際に利用された消費者の方からの反応は非常に良いんです」と、田中さん。
「生鮮食品を購入する際、保存期間を必ずチェックしますよね。中には、一度にまとめて購入して冷凍保存する方もいらっしゃるのではないでしょうか。ですが、冷凍保存よりも冷蔵保存の方が理想的です。そうと分かっていても、数日程度しか保存期間がない従来のプラスチックトレーでは、選択肢が限られていた。一方、『おいしさスキン』の保存期間は約2週間と非常に長い。このメリットが、消費者の皆様にも少しずつ浸透してきたように感じています」
購入した肉をすぐに調理しなくてもいい。そうなると、献立を考える時間も生まれてきます。肉をおいしく食べられるだけではなく、食卓を豊かにすることも出来る。それはつまり、私たち生活者の食生活に新しい可能性をもたらしているとも言えます。
そんな可能性を追い求めるように、チーズやパエリアなどにも『おいしさスキン』の活用範囲は広まっていますが、「私たちが想像もしなかった効果もありました」と田中さんは続けます。
Equally Beautiful (5344)

紙のトレーが使われることも。プラスチック削減にも繋がるエコなパッケージだ。

「これはスキンパックが早くから導入されている欧米から聞いた話なのですが、保存期間が延びた影響で夜勤などの無理なシフトを組む必要がなくなってきたそうなんです。今までは鮮度を保つために夜間の時間帯にパッケージングしていたものが、日中の時間帯にまとめて作業できるようになる。つまり、働き方改革にも繋がったのです」
そしてもう一つ、こちらは日本のスーパーからの嬉しい声。
「日本のスーパーでは、賞費期限が近づくと値下げをしますよね。保存期間が長くなれば、その頻度は減ります。そして、長く販売できるということは、廃棄の割合を減らせるということでもあるんです。実際に、食品ロスを大幅に削減できたというお声もいただいています」
日本の肉をもっとおいしくしたい。そんな想いから生まれた『おいしさスキン』は、食卓だけではなく、生産・流通の現場へも恩恵をもたらしています。そしてそれは、プラスチックだからこそ出来ることなのです。
Equally Beautiful (5345)

試作段階の冷凍寿司。『おいしさスキン』で、冷凍寿司の“おいしさ”更新にも挑む。

「最近、プラスチックはネガティブな見方をされることもあるのですが、生活になくてはならないものです。環境に配慮した素材に切り替えていくことはもちろん、『おいしさスキン』のようにプラスチックが持つ可能性をどんどん広げていく。社会にとって、より有益なものにしていく。それがプラスチックメーカーである我々の使命だと考えています」
住友ベークライトが掲げるビジョンは、“未来に夢を提供する会社”というもの。同社が扱う様々なプラスチック製品のアップデートに加えて、静岡工場ではビオトープ『憩いの社』を運営。生物多様性の保全に向けての取り組みも行っています。
『おいしさスキン』は、こうした住友ベークライトの理念と取り組みが結実した製品の一つなのです。
「環境に配慮した製品は単価が高くなってしまうのが現状かと思いますが、『おいしさスキン』はプラスチックトレーを使用したものと変わらない値段で手に取っていただけます。ご家庭に負担をかけることなく、おいしいお肉を食べられますので、まずは“本当においしい肉の色”を知っていただければ嬉しいです」
Equally Beautiful (5346)
食品ロスの削減や働き方改革への貢献など、社会課題の解決に寄与しながら、同時により美味しく、より便利な食生活を提供する『おいしさスキン』。
今後、日本の“食”がどのように変わっていくのか楽しみです。
writer
Equally beautiful編集部
  • facebook
  • twitter
  • line