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伊藤忠商事「バーチャルオフィス」から生まれた、環境配慮型肥料を軸とする次世代のビジネススキーム

伊藤忠商事「バーチャルオフィス」から生まれた、環境配慮型肥料を軸とする次世代のビジネススキーム

伊藤忠商事「バーチャルオフィス」から生まれた、環境配慮型肥料を軸とする次世代のビジネススキーム

2022年からはじまった伊藤忠商事の「バーチャルオフィス」とは、希望する社員が時間を有効活用しながら、自らが高い関心・熱意を持つ本業以外の案件に携わっていくオンライン上のプラットフォーム。今年度は約80名の伊藤忠商事社員が、8月から約半年をかけて活動を行いました。今回、インタビューした小林拓矢さんもそのひとり。この記事では、小林さんのチームが取り組んだテーマと活動内容について報告します。

TOP画像:伊藤忠商事 エネルギー・化学品カンパニー 小林拓矢さん(中央)と、左からメンバーの渡邊さん、瑞木さん、橋澤さん、中塚さん。
伊藤忠商事の「バーチャルオフィス」、その新しいワークスタイルとは?
伊藤忠商事の新たな取り組みとして、「バーチャルオフィス」がメディアでも話題となっています。この取り組みでは、ひとつのテーマに対して高い関心・熱意がある社員同士が、自らの意志で所属部署の壁を越えて仮想組織を結成。互いのノウハウを共有しつつ、短期間で効率良くプロジェクトを推進することを意図したものです。
「今回、部門を横断して取り組んでみたいテーマがあり、『バーチャルオフィス』に新たな期待を寄せました」と、伊藤忠商事 エネルギー・化学品カンパニーの小林拓矢さんは話します。
小林さんの発案テーマとは、「持続可能なアグリビジネスの展開」。なかでも主軸となるのが、環境配慮型の肥料です。
「肥料という商材は、さまざまなカンパニー(※)と最終的には連携します。例えば、服の原料となるコットンを生育させるのに肥料を使いますよね。そして食料となるさまざまな農作物にも、肥料が必要とされます。つまり、肥料を肥料のプロジェクトだけで完結させずに、肥料が使われる先にもアプローチをかけ、さらにはそこから生まれる農作物をどういう付加価値で世の中に提供していくか。そういう展開が、この『バーチャルオフィス』の仕組みを活用することで実現できると考えました」(小林さん)
※伊藤忠商事の営業部門の呼称。https://www.itochu.co.jp/ja/business/index.html
カンパニーを横断することで、プロジェクトの広がりは2倍、3倍にも膨らんでいく……。肥料という商材は『バーチャルオフィス』と、とても相性がいいそうです。ちなみに、今回の持続可能アグリビジネスのチーム編成は、食料カンパニーから1名、エネルギー・化学品カンパニーから3名、繊維カンパニーから1名、広報部から1名、人事・総務部から1名、監査部から1名、合計8名で構成されました。
世界的に注目される環境配慮肥料メーカーと契約合意
持続可能アグリビジネスチームは、スウェーデンの肥料メーカー「シニス・ファーティライザー」との契約合意に至りました(※)。
※シニス・ファーティライザーが2024年1月15日に発表したリリースはこちら(英文)
https://www.cinis-fertilizer.com/media/press-releases/2024/cinis-fertilizer-intends-to-cooperate-with-itochu-corporation-regarding-purchasing-and-sales-as-well-as-possible-establishment-in-asia/
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シニス・ファーティライザーCEOのヤコブ・リードベリ氏。

シニス・ファーティライザーは、化学エンジニアのヤコブ・リードベリ氏(CEO)とロジャー・ヨハンソン氏(取締役会長)が、大規模産業から排出される化学物質の削減と、これらの産業から発生する残渣の再利用を目的に、スウェーデンのルンドにて2016年に創業した会社です。2022年には、ストックホルムのナスダック・ファースト・ノース・グローラー・マーケット取引所に上場しました。
そのシニス・ファーティライザーが取り扱う肥料とは、SOP(硫酸カリ)。高付加価値の作物によく使われる肥料ですが、これを環境に配慮した手法で生成するのがシニス社独自の技術です。
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緑枠(右側)がシニス社の技術であり、赤枠(左側)が既存のSOP生成法。

既存のSOPの製造方法においては、塩化カリに硫酸を加え、700℃の高熱をかけて生成してきました。この工程により、塩化カリはSOPと塩酸へと化学反応します。
一方で、シニス・ファーティライザーの製造方法では、塩化カリに硫酸ナトリウムを加えます。この時、常温(25〜30℃)で化学反応させる点が見逃せません。熱を必要としないので、エネルギー使用量が50%削減されます。これにより製造コストを下げられるとともに、CO2削減にもつながります。
しかもその硫酸ナトリウムは、廃棄物由来を想定。パルプ産業や電気自動車のバッテリーから排出される硫酸ナトリウムを加えることで、SOPを作り出すことができるのです。
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スウェーデンで建設されているシニス・ファーティライザーのプラント。(2023年11月23日撮影)

シニス・ファーティライザーのプラントは、まもなくスウェーデンで稼働しはじめます。アメリカでは2025年の操業を目標に、プラント建設が進行中。そしてアジア圏では今後、伊藤忠商事がシニス・ファーティライザーに原料を供給、その製品販売も行い、将来的に両社は協業でアジア地域にプラントを建設するようなことも可能性として想定しています。
シニス・ファーティライザーの広報担当者アンダース・アントンソンさんは、Equally Beautifulの取材に対し、こう答えています。
「革新的なアップサイクルを通じて、世界で最も環境に優しい有機肥料を生産することがシニス・ファーティライザーの使命です。このプロジェクトはまだ初期段階にありますが、私たちのビジネス提案が、多くの国々で高い関心を持たれていることに気づきました。シニス・ファーティライザーの循環型プロセスは、伊藤忠商事とともに、より持続可能な農業を推進し、農業における化石依存を解消し、農業から排出される世界的な温室効果ガスを削減する機会を提供します」
シニス・ファーティライザーのSOPを用いて作られた作物は、環境に配慮された手法で作られた作物として、新たな付加価値を伴うものとなります。それは先述の通り、食物、繊維、アパレル、あるいはバイオ燃料など、多岐にわたる商材の付加価値を生み出し、その商業活動が地球環境にプラスに働くことは間違いありません。
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「自分自身これまでの5年間、ずっと環境ビジネスを手掛けてきましたので、当たり前のこととして、このテーマを追いかけてきました。その意味でも、この案件はぜひ手掛けたいものでした。
さらに、こういう商材は、いろんな力を結集した方が、手掛けやすい案件です。この肥料を次のビジネスへと展開していく際に、(伊藤忠商事内の)さまざまなカンパニーの人がいた方がやりやすいのです。サプライチェーンを横断していくこと、それが弊社の強みだと思いますし、そうすることで我々が提供できる価値も大きくなっていくんです。そのシナジーを狙って、今回バーチャルオフィスのテーマとして挙げました」
このように語るバーチャルオフィスメンバーの皆さん。その眼差しは、とても力強いものでした。
writer
Equally beautiful編集部
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