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サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

伊藤忠商事が、イタリアのAQUAFIL(アクアフィル)社との業務提携を発表したのが2021年。AQUAFIL社によるリサイクルナイロンブランド「ECONYL®(エコニール)」を活用した漁網作りが、いよいよ日本ではじまります。エコニールは海洋などで使用され、廃棄された回収漁網を原料の一部としていることから、この取り組みにより、“サステナブルな漁網”が完成します。この記事ではpart 1に続き、同じく本プロジェクトの漁網製造を手掛ける、愛知県西尾市・木下製網をご紹介します。

TOP画像:木下製網 代表取締役社長 木下康太郎さん
無結節編みという日本独自の漁網を推進
木下製網は、三河湾に面する愛知県西尾市にて、1933年に創業。この地方はもともと木綿の産地であり、漁師町でもあったことから、漁網を製造する工場が多数存在したそうです。
代表取締役社長、木下康太郎さんはこう話します。
「漁網の編み方には2通りあり、節を作る有結節法と、節を作らない無結節法に分けられます。この節を作らない無結節法は日本独自の手法であり、木下製網は早い段階で大規模な設備投資をして、無結節漁網を生産してきました」
一般的に、漁網は複数本の単糸を束ね、それらを撚ることで強度を担保します。そして無結節漁網とは、網を編む際に、撚った複数本の糸が組紐のように交差して、そのまま突き抜け貫通させます。
サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

左/無結節編み。右/有結節編み。

日本の漁業は旋網漁(※)が生き残ると、木下製網は考えました。その旋網漁で必要とされるのが無結節網なのです。
※まきあみりょう。魚の群れを包み込むように網を入れ、すばやく底をしぼって引き上げる漁のこと。
例えば、イワシやサバ漁。これらのほとんどが旋網漁です。日本近海は潮流が早く、水深が深いところで漁が行われます。ゆえに網を水中に下ろすと、スーッと自重で沈んでいく方が、都合がいいのです。漁網は主に、ナイロンもしくはポリエステル糸が用いられますが、ナイロンは比重1.14、ポリエステルは比重1.38。海の中では、ポリエステルの方がおよそ2.5倍重くなります。
「したがってポリエステル網は、海中深くまでスムーズに下りてくれて、潮の複雑な流れにも落ち着いて耐えてくれます。このポリエステル網を編むのに、無結節がいいんです。なぜならばポリエステル糸は、節を作ると屈曲箇所が弱くなり、破れやすくなるからです。この素材特性により、無結節網という編み方が日本で盛んとなりました」
世界の漁業ではナイロン網が用いられるなか、日本ではポリエステル網が浸透した背景には、日本近海特有の潮の速さがありました。木下製網では無結節漁網を50年前に手掛け、今ではこのジャンルのパイオニアとなっています。
サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

巨大な網で、一網打尽のように魚を捕っていく旋網漁。ただし乱獲を防ぐべく、ルールに基づいて漁獲高をコントロールするのが現代の旋網漁のスタイルです。

東日本大震災の教訓をもとに、リサイクル活動を本格化
木下製網が漁網のリサイクルを強く意識したのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。
「津波で岸壁においてあった漁網は、市街地まで流されました。自衛隊がライフライン復旧のための道路を重機で造っていく際に、一番処理に困ったのが網やロープだったそうです。その時に、漁網は使い終わったら適切に処理しないと、こういう問題を引き起こすのだと強く思いました。我々は会社を挙げて、復興支援に取り組んでいましたが、ちょうど石巻へ向かう道中、これからは本腰を入れてリサイクルに取り組もうと宣言したことを覚えています」
サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網

旋網とは長さ2キロ、深さおよそ300メーターにも及ぶ巨大な網です。投網回数としては、数百回から1000回以上にもわたり、平均3年から5年ぐらい使うのが一般的。傷んだ箇所は部分的に補修され、まだまだ使える場合は、再利用品として発展途上国に輸出するなど、活用の道を探します。

一方で、漁網をリサイクルするには「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」の2つの方法があります。マテリアルサイクルの場合は、網を溶かしてペレットに戻し、成形品に用います。溶かすと言っても、物性変化は起こさせず、単純に形状が変わるのみ。不純物は除去しきれず、品質劣化は免れません。ところがケミカルリサイクルの場合は化学分解を行い、分子結合を変化させます。このとき、不純物は完全に取り除かれ、バージン素材とまったく変わらない素材を導くことが可能になります。
ケミカルリサイクルでは原糸まで戻すことが可能です。特に産業資材用の原糸は、物性重視であり、ケミカルリサイクルでないと再利用原糸になり得ません。
サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 2。漁網3R(リデュース・リユース・リサイクル)を掲げる木下製網
「ただしケミカルリサイクルのほうが、圧倒的にコストがかかります。ですからリサイクル率100%を目指すのではなく、10%なり20%なりを既存原料に混ぜて使用することで、現実的なコスト計算が可能となります。そうやって運用しても、品質劣化がまったく起こらないのはケミカルリサイクルの利点です」
リサイクルのコストを現実的にどうやって事業モデルに落とし込むべきか……。そのためのアイデアが、いま続々と集積されつつあると言います。では、この動きは革新的な変化となり得るのでしょうか? 木下さんは、こう力説しました。
「日本の人口が減っていく中で、国内における水産物需要は減っています。したがって、水産庁の政策は、水産物の輸出促進に向いています。そのような中で、環境負荷に対してネガティブな漁業を行っている国の魚は買わないという事例が、アメリカやヨーロッパなどで具体的に出始めています。漁具リサイクル活動が評価対象になるのはまだ先の話だと思いますが、いずれ国際的にも議論が及んでいくことは明白なのです」
3Rそれぞれを推し進め、その合わせ技で環境負荷低減にコミット
さて、木下製網では、AQUAFILと伊藤忠商事が納入した再生原料によるサステナブル漁網が、まさに完成しようとしています。
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木下製網によるエコニール®を使用した試作漁網。

AQUAFILが手掛けるエコニール®は、ケミカルリサイクルによる再生ナイロンです。日本の旋網には、ポリエステル製の無結節漁網を使うと先述しましたが、海外における無結節漁網は、ナイロン製が主流。そのナイロン網も無結節で編むことによって大きなメリットがあると、木下さんは考えています。
「無結節というのは、有結節に比べて、糸の強力を高めますし、耐久性にも優れることから、網そのものが長持ちします。そして結節箇所の強度が高く、網に使用する糸を細くできるんです。仮に有結節網の重量が60tだとすると、無結節では45tで済んでしまう。15t分をリデュースできれば、それだけ環境負荷の低減につながります。
漁網メーカーとしては、漁網から漁網を作ることはもちろん、漁網から陸上ネットを作ることも考えています。網という形態はそのまま、陸と海を問わずリサイクルの循環を繋ぐ概念です。漁網は塩分が入ってるので、分解時に塩分を分解するとダイオキシンがでます。ですからリサイクルしにくいものだという固定観念がありました。でも、もうそうじゃないんだということを、丁寧に伝えていきたいと思っています」
そして、木下さんはこう付け加えます。
「3R、すなわちリデュース、リユース、リサイクルという側面があって、それぞれがとても大切なことなんです。でも一番効果的なのは、リサイクルじゃなくてリデュース。環境に一番優しいのは、石油由来原料の使用量そのものを減らすことです。漁網の糸を太くすると、それだけ材料を使います。私たちは、これから糸を細くしていきたい。それで問題なく使えるならば、材料消費をリデュースできます。同様にリサイクル原料で網を作るときも、材料をリデュースする。私たちが提唱したいのは、“材料のリデュース=無結節”ということなんです」
木下さんは、ライバル会社にも無結節編みの機械を導入してもらいたいそうです。そうやってオールジャパンで一丸となり、この考えを世界に広めていきたいとしています。無結節編みの漁網が世界スタンダードになった暁には、業界全体を通じて大規模な原料消費が削減でき、環境負荷の低減にさらに貢献できると考えているのです。
関連記事:サステナブル漁網を推進する日の丸ブランドの最前線part 1。桃井製網の“これまで”と“これから”
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関連記事:著名ブランドも採用するリサイクルナイロン「エコニール®」
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writer
Equally beautiful編集部
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