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キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

キッコーマングループのバイオケミカル製品を扱うキッコーマンバイオケミファ株式会社が、都度、使い捨てる必要があるプラスチック製の衛生検査キット「ルシパック」のプラスチック原料を、マスバランス方式の100%バイオマス原料に紐づくプラスチックに変更することを決めました。2023年9月上旬(予定)を皮切りに、順次、切り替えていくと言います。さらに、この変更を理由にした小売価格の改定は行わないそうです。消費財に比べて環境面をアピールしても社会的に認知されにくいB to B商材で、そうまでして環境負荷の少ない原料への変更に踏み切る理由はどこにあるのか……。担当者へのインタビューを通じて浮き彫りにしていきます。

見えない汚れを、迅速かつ定量的に検査するツール
「見えない汚れ」。一見、謎掛けのような言葉ですが、コロナ禍を経験している私たちにとっては、感覚的に理解できることのようにも感じます。
たとえば食品工場では食中毒事故を起こさないように徹底した衛生管理が行われますが、当然ながら食中毒菌は目には見えません。その対策は、清掃・洗浄を欠かさず、きれいな衛生環境を保つこと。ですが、その衛生環境の良し悪しは、見た目だけで判断することが出来ません。
「したがって、信頼できる測定方法に則って、実際に汚れていないかどうかを判断する製品が必要とされました。当初は、食品工場での使用が中心でしたが、現在では飲食店をはじめ、病院、ホテル、温浴施設、学校、ハウスクリーニングなど、幅広くご使用いただいております」
そう語るのは、キッコーマンバイオケミファの志賀一樹さんです。
キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?
キッコーマンバイオケミファが提供する衛生検査キット「ルシパック」の使用方法は、とても簡単。
1 キットのキャップを外し、綿棒の先に検査対象を接触させてふき取る。
2 キャップを戻し、綿棒の先を差し込む。
3 綿棒の先端でアルミ蓋を破り、液体と接触させ、さらに粉状の試薬を液体と混ぜる。
4 綿棒に汚れ(ATP)が付着している場合には、試薬と混ざった液体が反応して発光。専用機器「ルミテスター Smart」に差し込み、光の強さを計測し、数値で判定。
と、こんな具合です。
ふき取り開始から測定数値を検出するまで、およそ20秒。この手軽さで、数十フェムトモル単位のATPを検出できます。“フェムト”とは、10のマイナス15乗。ちなみに、世間一般でよく聞く“マイクロ”は10のマイナス6乗。“ナノ”でもマイナス9乗です。つまり圧倒的に感度の高い検査キットなのです。
「このレベルの感度で手軽に汚れを検出できるソリューションは、おそらくATP検査以外には世界を見渡しても他にないものと思います」と、志賀さん。1回あたりの検査コストは240円程度(※)に抑えられ、ある程度の大きさの食品工場であれば、1日100本以上のルシパックが使われていることも珍しくないそうです。しかも、ルシパックはECサイトでも販売されていますので、一般の方々でも入手することが可能です。
※ルシパックは1キット(100本入り)で希望小売価格2万4000円(税別)。また、微弱な光を測定する専用機器(ルミテスター Smart)は希望小売価格9万9800円(税別)。
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キッコーマンバイオケミファが提供している検査キット。左が試薬の入った「ルシパック」で、右が検査の値を数値化する「ルミテスターSmart」です。「ルミテスターSmart」は、肉眼では捉えられない超微弱な光を数値化する機械。カメラのように、シャッターを内蔵し、そのシャッターの下に受光体(フォトダイオード)を設けています。

醤油づくりで培われたバイオテクノロジーにより行き着いたバイオケミカル事業
キッコーマンが老舗醤油メーカーであることは、誰もが知る事実。そのような会社のグループに、なぜバイオケミカル事業が存在するのでしょう? それを解く鍵は、醤油づくりで必要とされた発酵や微生物に対する知見にありました。
「醤油は、麹菌を中心とした微生物の発酵によって作られます。それゆえ弊社では、微生物の研究が欠かせなかったのです。その研究とは、今風に言うとバイオテクノロジーなのですね。キッコーマンでは、微生物を使って醤油以外にも有用なものを作ろうという研究が昔から行われていました。例えば、ホタルの発光する酵素。ホタルが尾を光らせるのに酵素を使うのですが、その酵素を微生物にたくさん作らせて、産業に活用しようという研究がありました」(志賀さん)
このホタルの話が、じつはルシパックと大きく関係しています。
先ほどの検査手順4で、「汚れ(ATP)」と記しましたが、ATPとはエネルギーの源になる物質。動物が何らかの活動をするときにはATPを分解して、そこからエネルギーを取り出します。人間が身体を動かしたり、頭を使う時にもATPは消費されるのです。
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キッコーマンバイオケミファ 企画部企画グループ 衛生検査製品担当マネージャー 志賀一樹さん

「このことは、すべての生物に当てはまります。そして汚れというのは、基本的には食品残渣や微生物といった有機物であり、そこにはほぼ必ずATPが存在します。つまり、このATPが汚れの指標になるのです」(志賀さん)
ここでもう一度、話をホタルに戻します。ホタルが尾を光らせるのにもエネルギー源となるATPを消費していますが、この時、ルシフェラーゼという酵素とATPを組み合わせて発光します。そして、ATPの量によって光る強さは変わるのです。
「つまり、ルシフェルラーゼというホタルが持つ酵素があれば、ATPを定量的に測定できる。そこでキッコーマンが持つ遺伝子クローニング技術(ホタルの遺伝子を組み替えて、微生物にホタルの酵素を作らせる)により、世界で初めてルシフェラーゼの大量生産を可能にしました」(志賀さん)
ちなみに、検査で必要なルシフェラーゼをホタルから抽出しようとすると、1回分でホタル数十匹が必要。それをせずとも、微生物を使って大量にルシフェラーゼを生産することが可能となり、1990年にはATPを検出する検査試薬として発売、1998年には、ハンディタイプの検査キットが販売開始となりました。
製品名「ルシパック」の“ルシ”とは、ホタルの持つ酵素「ルシフェラーゼ」から取られています。発光の意味を持つラテン語が語源です。
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この数十ミリグラムの白い粉こそが、キッコーマンバイオケミファの技術の粋。この粉の中に、ルシフェラーゼが含まれています。

キッコーマンバイオケミファがマスバランス方式を採用した理由
地球社会との共生を掲げて資源の有効活用、二酸化炭素排出量の削減に取り込んでいるキッコーマングループ。1990年代にはすでに環境憲章を制定して、グループ一丸となって取り組んできたそうです。
「それゆえ、たとえ一般の消費者には届きにくいB to B商材であっても、環境問題に着手するべきという社内機運がありました」(大浜さん)
もちろん、競合他社に先駆けていち早く環境対応していくことが、環境問題に意識の高い欧米グローバル企業の心に響くはず、という経営判断もあったのでしょう。
一方で、「ルシパック」は微量な汚れを検知するためのものだけに、使い回すことができず、毎回、新しい検査キットを用いる必要があります。しかもこの製品は、一見シンプルそうに見えますが、非常に複雑な形状となっています。
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使いやすいように、綿密に計算された形状。節部分の複数箇所に、0.1ミリ以下の薄い円盤状のパーツが配されています。

例えば、写真のような円盤ひとつも、0.1ミリ以下の厚さであることが求められています。部品形状にそれぞれの設計意図があり、非常に複雑で、生分解性のあるポリ乳酸など、他の素材では簡単には作ることができなかったそうです。
キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

キッコーマンバイオケミファ 企画部企画グループ グループ長 大浜保雄さん

「そんな中で、マスバランス方式のバイオマスポリプロピレンを伊藤忠商事が扱い始めたという話を聞き、早速、コンタクトを取りました。あれは2020年10月だったと記憶しています。マスバランス方式は、元々、石油由来のポリプロピレンでできています。つまり、素材が変わらないのだったら同じものが作れると、話がスムーズに進みました」(志賀さん)
[マスバランス方式とは?] https://equallybeautiful.com/glossary/94
一方で、キッコーマンバイオケミファがマスバランス方式のバイオマスプラスチックを活用するために尽力したのが、伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニーの三宅さん・高橋さんです。ここで、おふたりに改めてマスバランス方式を採用するメリットをうかがいます。
キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニー合成樹脂部 合成樹脂資材課 三宅幸佑さん

キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?

伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニー合成樹脂部 合成樹脂資材課 高橋翼さん

「マスバランス方式では、樹脂メーカーが既存の設備を使いつつ、効率よく必要な分だけバイオマスプラスチックを生産できます。物性も既存の石油由来のプラスチックとまったく変わらず、さまざまなグレードがあり、選びやすいという点がメリットです」(三宅さん)
「現代では、モノそのものの価値に加えて、モノが出来上がる過程すべてにおいて透明性が問われる時代です。マスバランス方式ですと、携わるすべての人たちが、必要な監査を受けています。つまり、トレーサビリティの観点からも、マスバランス方式は現状においての最適解なのです」(高橋さん)
今回、キッコーマンバイオケミファの取り組みは、原料を部分的に切り替えるのではなく、はじめから100%マスバランス方式に切り替えたところも注目されています。その背景には、2020年から3年をかけて準備してきた努力の積み重ねがあるのでしょう。
キッコーマンバイオケミファの志賀さんは、このように語ります。
「マスバランス方式であれば、原料の一部、つまり30%や50%だけを使用するという運用もできなくはありません。しかし、この方式を採用決定する段階ではもう、100%切り替えで進めていくことが決まっていました。それは私たちグループの理想に向けた検討だったので、妥協の余地はありません」
キッコーマンバイオケミファが導入決定! 世界に向けた製品づくりにおけるマスバランス方式プラスチックの有効性とは?
志賀さんのこの発言を受けて、伊藤忠商事 高橋さんはこう続けます。
「食の安全を守る衛生検査キットにマスバランス方式のバイオマスラスチックが採用されたことは、率直に嬉しく思っております。この取り組みは言わずもがな、SDGsの目標の一つである気候変動対策に加えて、食に関わる目標にも、大きく寄与できるのではないかと考えております」
高い環境意識を背景に、世界基準の製品を作り出しているキッコーマンバイオケミファ。その製品づくりに、マスバランス方式のバイオマスプラスチックが使われ始めるという事実は、きっと大きなターニングポイントになるだろうとEqually beautifulは予想します。また伊藤忠商事 高橋さんが指摘するように、これを契機に食領域にもマスバランス方式のバイオマスプラスチックが活用されはじめ、ますます社会的な信頼を勝ち得ていくのだと思います。
何より、日本の伝統的な老舗ブランドが、この方式を評価し、優位性を認め、製品化したインパクトの大きさは見逃すことができません。これからマスバランス方式のバイオマスプラスチックを扱う企業が加速度的に増えていくのではないか。そんな風に考えているのです。
キッコーマンバイオケミファ株式会社 ホームページ
https://biochemifa.kikkoman.co.jp/

キッコーマンバイオケミファ株式会社 ATPふき取り検査(A3法) 特設サイト
https://biochemifa.kikkoman.co.jp/kit/atp/
writer
Equally beautiful編集部
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