「おさかな天国」の今と未来
海に囲まれた島国であり、寒流と暖流が合わさる潮目の存在など、豊かな水産資源に恵まれた日本。北海道から沖縄まで、南北に伸びた国土によって、同じ国でありながら異なる気候の海産物が採れるというのも、他国にはない特徴だ。
しかしながら、1980年代を境に日本の漁獲量は年々減少を続けている。海外の排他的経済水域からの撤退や漁師の人手不足などの問題もあるが、忘れてはならないのが海洋環境の変化。「海水温の上昇」「海洋汚染」だ。海水温が上昇すると、魚の回遊ルートが変更される。そうなると、今まで獲れていた魚が獲れなくなってしまう。さらに、工場の廃液やゴミの投棄などが原因となって引き起こされる海洋汚染は、魚の生態に大きな影響を与える。以前に比べて改善はみられるものの、元通りになるには長い時間を要する現状だ。
そのような状況下で、少しずつ注目を集めているのが「未利用魚」だ。聞きなれない言葉だが、それもそのはず。基本的には出荷されず、小売店、そして食卓には並ばない魚である。
未利用魚が出荷されない理由はいくつかある。例えば漁獲量が多すぎる・少なすぎる、形が悪い、魚の知名度が低いなど。ある地域ではおいしい魚として活用されていても、他の地域では、活用方法が広まっておらずに廃棄されてしまうものもある。
しかし、いままで未利用魚だったものが活用されるることもある。「ゲンゲ」や「エソ」がその例だ。
「ゲンゲ」は水深200メートル付近に生息する深海魚だ。全身はヌルヌルとしたゼラチン質で覆われており、身は白く透明感がある。ゲンゲが昔から獲れる富山では味噌汁の具や吸い物の種として活用されていた。ただ、味はおいしいものの、グロテスクな顔つきや足が速いことを理由に漁師からは「下の下(げのげ)」と呼ばれ、市場には出回らず漁村の家庭料理で活用される程度のものであった。
近年、流通技術の進歩により割烹や料亭で天婦羅や唐揚げとして提供されはじめたことで、ゲンゲの味や、豊富なコラーゲン含有量が知れ渡った。価格も安く料理に利用しやすいゲンゲは、富山だけでなく関東や関西にも流通している。
「エソ」は温暖化の影響で日本近海でよく捕獲されるようになった魚だ。上質な白身をもち、九州ではかまぼこの材料として人気が高い。しかし、調理方法が知れ渡っておらず、ゲンゲと同じく足が速く骨も多いため、未加工での流通価格が非常に低いのも廃棄されてしまう理由だ。
これを、すり身加工品にすると価値は大きく上昇する。その試みは様々な地域で行われており、新潟県長岡市では、教育機関、留学生、漁業組合が連携し、新たな名物づくりに挑戦している。
このような未利用魚を活用して、新しい漁師町の形を作ろうとしているのが、福井県若狭高浜漁港だ。日本海に面した立地を活用し、若狭湾の代表魚である「若狭ぐじ」や未利用魚の加工品を販売する「UMIKARA」を展開。観光施設として楽しめるのはもちろんのこと、ECサイトでも若狭湾の魚を気軽に購入することが可能だ。漁師の収入、町の活性化にもつながっており、未利用魚も活用することで大きな効果を生んでいる。
日本の水産資源を取り巻く環境は大きな変化を迎える中、いかにしてその変化と向き合い、新たな価値の発見・創造をしていくのか。その萌芽は、日本各地で生まれ始めている。