INTERVIEW

今、雑誌「FRaU」のSDGs特集が女性読者に響き、届くワケ。

今、雑誌「FRaU」のSDGs特集が女性読者に響き、届くワケ。

今、雑誌「FRaU」のSDGs特集が女性読者に響き、届くワケ。

SDGsという言葉が今ほど浸透していなかった頃、女性誌としては世界で初めて一冊丸ごとSDGsを特集して話題となった「FRaU」。「編集」というアプローチで女性読者とSDGsをつなげるための秘訣を関龍彦編集長に伺いました。

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「私はずっと講談社におりまして、『ViVi』や『VOCE』などの女性誌をつくってきました。『FRaU』は2010年から4年間編集長を務め、2018年1月に再び編集長兼プロデューサーに就任しました。同年の12月に、社会・地球・未来のために何かやれることがあるのではないかという想いから『FRaU SDGs』を発刊したのですが、有難いことに良い反響をいただきまして、今も特集を続けています」
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企業から発注を受ける広告にも、SDGsを届けるための工夫を施せると関編集長は言います。
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「広告は、読者に向けての宣伝の役割を果たしながらも、ひとつのコンテンツでもあります。我々が編集ページと同じように広告をつくることで、ユーザーだけではなく企業の方たちにも届きやすくなっているのではないかと感じています。『FRaU』の広告を通して、各企業の皆様が情報交換を出来るようになると、より意義深くなるのではないでしょうか」
一般的に広告は消費者=読者に向けて作られるものですが、その枠を超えて、広告を出す企業同士が影響し合い、誌面上で情報交換ができる仕組みを「FRaU」は作っています。読者だけでなく、広告を出す企業側に対しても誌面でのアプローチを仕掛けていく関編集長の意図が垣間見えます。
「他には、広告費が払えないという企業の方には、代わりに『FRaU』を買い取っていただくというような試みもしています。雑誌を維持するためにお金はどうしても必要なのですが、広告費用をかけられない会社があるのも事実です。雑誌を買い取っていただくことで、お金の問題点が解決されますし、我々編集部もSDGsに特化した事業を取材できるという利点も生まれてきます」
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様々なアプローチで企業も巻き込み、SDGsを盛り上げていく。関編集長はある「使命」を胸に誌面を作っているのだと言います。
「SDGsは取り組むだけではなく、その事実を報告することが大事です。『知らせる、伝わる』。そこまでやってSDGsです。国や企業などが取り組んでいるSDGsを語り部(べ)として伝えるというのが、我々の使命ではないかと。今日も環境省を訪れてお話をしてきたのですが、彼らも伝え方には迷いがあるように感じました」
女性誌の編集者が霞ヶ関に通う。産学官民一緒になるのがSDGs。
「女性誌担当が長いのでパリに行くことはあっても、霞ヶ関に通うことはこれまでありませんでした。国、省庁だけではなくて、京都大学や慶応大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)でイベントや授業を行うなど、産学官民の輪の中に入っています。その中で我々メディアが負うべき役割があるのだとすれば、やはり語り部となって伝えていくことでないでしょうか。語り部というと堅苦しく聞こえてしまうかもしれませんが、メディアとして伝えるということは、ある種のエンターテイメント性を持って情報を発信するということでもあります」
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SDGsの特集という初の試みを行う中、読者からは様々な反応があったそうです。その中には、予想もしなかったものも。
「参加者40名ほどの小規模なイベントを開催したところ、その中のお二人が我々の雑誌を読んでから半年で会社を辞めて別の会社に入られたということを聞きました。お二方とも、環境問題や社会問題に取り組んでいる会社に移られたと聞いています。我々が作る雑誌が与える影響をしっかりと受け止め、中途半端なものを作ってはいけないなと身の引き締まる思いでした」
読者が素直に良いと思える雑誌は素晴らしいもの。それでも、関編集長の真摯な編集姿勢が変わることはありません。SDGsの活動が活性化する一方で、まだまだ環境問題に関心が薄い方たちがいるのも事実。編集者として彼らにどのように関わっていけるのか、関編集長は教えてくれます。
「小泉進次郎環境大臣をインタビューし『最初の一歩を踏み出せば、楽しくなる』と伺ったことがあります。最初はエコバッグから始まり、次はマイボトルと、新しいことをやりたくなってくる。では、その第一歩を踏み出してもらうために、女性誌が果たす役割を考えた時、何か始めてみようという気軽なアクションのきっかけになる必要があると思いました。ただ、女性誌は啓蒙であってはならないので、おしゃれだったり楽しかったりする選択肢や方向性を掲示していくことが大切です。雑誌が最初の一歩の後押しを担い、後はご自身でやっていただくということです」
読者には、あくまで「選択肢や方向性を掲示していく」。更に、企業の広報を通した読者へのアプローチが重要だと、改めて話してくれました。
「たとえば、株式会社Tポイントジャパンは、漁師の方たちが持て余している魚に着目しました。余っているからといって捨ててしまうと、環境へ負荷をかけてしまう。そこで、Tポイントジャパンは余った食材をきちんと食べ物にするプロジェクトを開始しました。保有するデータの中からプロジェクトへの参加者を募り、実際に現地に行って何ができるかを模索したといいます。最終的にはビッグデータを使って、名前やコンセプトを決めたりもしていました。人間っぽい話でもあるし、AI的な話でもありますよね。彼らだからこそできるSDGsです。FRaUではこの取り組みを、企業のタイアップページのコンテンツとして紹介しています。記事を読んで、企業を応援しようとする人が出てきてくれると嬉しいですね」
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プラスチックは悪者ではない、だが、ダイエットすることは必要。
環境問題で重要視されるもののひとつ、プラスチック問題についての考えも伺ってみました。
「プラスチックを一概に悪と見なすことは難しいと感じています。プラスチックによって食品の消費期限や衛生面が保たれ、我々は安全に暮らすことが出来ます。プラスチックが悪い、プラスチックを0にしようというのは現実的ではない一方、日本のプラスチック消費量が世界で2番目だということも忘れてはいけません。そこまで大量のプラスチックが必要なのか、振り返る必要もあると思います。この点に関しては、『プラスチックダイエット』を目指しつつ、同時に環境負荷のより少ない素材を開発していくことで道が開けると考えています。素材の開発や切り替えは、コストのかかることであり、採用する企業はこれまで多くありませんでした。ですが、今は風向きが変わってきて、採用したいという企業は増えつつあります」
プラスチックの恩恵を受けながらも、プラスチックを取り巻く問題と向き合っていくこと。最初の一歩を踏み出すために、無理のない範囲で活動をすることこそが、問題解決に持続的に取り組める秘訣なのかもしれません。
「一方で、環境負荷の少ない素材を使っていることだけに満足してはならないとも考えています。素材の切り替えは持続可能な発展を実現するための一要素であり、最終的な解決方法ではありません。“サーキュラーエコノミー”(資源を使い捨てるのではなく、循環的に利用し続ける経済モデル)を目指し、変革し続けることこそが重要ではないでしょうか」
一つ一つ、着実に積み重ねていくことで、よりよい発展に繋がっていく。それこそがSDGsを実現していくのだと実感させられました。
最後に、関編集長が個人的にどのようなSDGsに取り組んでいるか、聞いてみました。
「マイバッグ、マイボトルはもちろんのこと、コンポストを活用しています。最初のうちは失敗して面倒くさくなったこともありますが、今は生ゴミを出さなくて良いという快感に変わっています。コンポストから作られた堆肥で育てたハーブを食べていて、これはちょっとしたサーキュラーエコノミーですね。あとは、家庭の電力でも再生エネルギーを取り入れているのですが、色々なことを変えることで気づきも多くなります。これらの気づきを誌面にも反映していきたいですね」
「編集者」という立場で読者や企業と関わり合うことで、関編集長自身もSDGsに対する意識が磨かれていくようです。SDGsは一朝一夕に語れるものではありません。ですが、「FRaU」というフィルターを通して、わかりやすくしてもらうことで、私たちにも身近に感じられるSDGsが発見できるはずです。
writer
Equally beautiful編集部
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