お花屋さんの花は少し気温の低いところで保管しています。それを自宅に持って帰ると急に花が開くことがあります。それは家の中の気温が高いからです。花は咲いて嬉しい反面、急に咲いた花は枯れるのも早いようです。バイオプラスチックを取り巻く状況も、環境に配慮したプラスチックに変換させていくこと自体は急務です。しかし、すぐに全部を変えないといけないという話にすると進む話も進まなくなることもよくある話です。今回はバイオマスプラスチックの普及のために必要なマスバランス方式も合わせて聞いていきたいと思います。
EQUALLY BEAUTIFUL(以下「EB」)小林さんにずっと講義のようにお話を伺ってきましたが、ちょっと息抜きをしたいと思います。いかがでしょうか?
小林 ははは。ずっと聞いていただいて、難しすぎましたか?
EB 少し予習をしてきたので、そこまではわからないとは思っていません。ですが、熱く語っていただいている姿を拝見していて、環境に対しての小林さん個人のアプローチも閑話休題的に伺っておきたいと思います。
小林 個人的に取り組んでいるかと言われるとどうなのでしょう。こうしていつも水筒を持っています。好きな飲み物を入れられるのが第一ですが、同時に環境にも良いと思っています。
EB 水筒を持ち歩く人は本当に増えましたね。こういうアクションが地球環境を良くする第一歩だと思っています。他に何かやっていらっしゃることはありますか?
小林 海に行くことが多いのですが(ただ好きというだけというか、海を見ていると気分が良いとかその程度なのですが)、そのときに考えていることはありますね。簡単にいうとプラスマイナスでいうならマイナスで帰りたい、と思っています。
EB 海に行くのにプラスマイナスですか?
小林 海に行くと必ずゴミを拾って家に持ち帰るようにしています。海のゴミが少しでもマイナスになれば、という単純な思いだけですが、それでもやらないよりやったほうが良いじゃないですか?
EB そう思います。小さなアクションでも、塵も積もれば山となりますからね。では、本題に入りたいと思います。今回はバイオマスプラスチックの強力なサポーター、マスバランス方式について伺っていこうと思っています。
小林 少しわかりにくいかもしれませんが、なるべくわかりやすく書いてください(笑)。
EB 頑張ります(汗)。
マスバランス方式に関して、少し説明をしておきたいと思います。今、海洋プラスチックなどによる環境汚染は世界レベルでの問題となっています。そこで日本政府はプラスチック資源循環戦略を策定しました。2030年までにプラスチックの再生利用を倍増することや、バイオマスプラスチックを約200万トン導入するという目標を掲げました。その達成に有力な手段とされるのが、マスバランス方式を適用したバイオマスプラスチックや廃プラスチック由来再生材の導入だと言われています。
小林 「脱プラ」という言葉で、多くの人はすべてのプラスチックをなくすというイメージを持たれたかもしれません。ですが、世界中でプラスチックがない国はありませんし、日常生活でプラスチックが身近にないことはないと思います。プラスチックストローの廃止が良い例ですが、100か0かという問題になりました。ですが、100か0というのは本当にリアリティのあることなのでしょうか? と考えています。プラスチックはそのさまざまな利点から身の回りのどこにでもあり、例えば服でもナイロンとかポリエステルとかアクリル素材の服もプラスチックです。これらの全てを着ないで暮らすか? という問題になってしまうと思うのです。そうではないですよね? 同じプラスチックですが、これは廃食油由来になります、ということを考えていただきたいわけです。まずはプラスチックを使いながら環境配慮に達成できることが必要なのです。
EB そうですね。何か悪いものが出てくるとヒステリックにオールオアナッシングにしようとする動きはありますよね。あんなにムキにならなくても良いとは思っていました。
小林 すぐに100にするのが難しければ、もともと0だったものを1にして、2にして、3にして、という具合に少しでも前に進むことが必要だと思います。
EB 同感です。できることからコツコツと! という感じで、何もしないよりは一歩ずつ進めていけば良いことも多々あります。
小林 バイオマスプラスチックもそんな状況にあります。プラスチックを取り巻く現状において、石油由来のプラスチックをいきなりすべて、つまり100%バイオマスプラスチックにするということは原料の調達も含めて極めて難しいのです。ですが、1%から始めて、目標を100%に置いておくことは今すぐにでも可能です。前々回年間500万トンのPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)が日本で消費されていると申し上げましたが、このうちの一部で良いからバイオマスプラスチックにしていこうということなのです。徐々に増やすことが大事で、この一部のために新たに工場を作らずできるわけです。
EB 最初の一歩をどう踏み出すか、ということですね。
小林 まず踏み出さないことには何も始まらないのです。ですが、ここで重要なことは「本当にバイオマスプラスチックになっているか?」ということです。つまり、植物由来、廃食油由来などの環境に優しい原料になっているか、ということなのです。そこで前回お話しした追跡性と第三者認証が意味を持ってきます。原料から成形、商品化に至るまでを可視化することができるので第三者認証の監査を受けることができます。これによって、100のうち5の原料がバイオマス由来であれば、その5に対しては100%バイオマスプラスチックとして認証されていると言えるシステムです。簡単にいうとこれがマスバランス方式です。
EB マスバランス方式だけを聞くとわかりにくいと思いますが、大切なことは小林さんが先ほどおっしゃっていた100か0かではなく、0、1、2、3、4、5と積み上げていくこと、と伺ってから聞くと非常にわかりやすいです。バイオマスプラスチックは石油由来のプラスチックと見た目も変わらなければ、工場も同じ。これでは環境に優しい原料で作られたバイオマスプラスチックなのか、ということがわかりません。バイオマスプラスチックが採用された商品を購入された方も本当に地球環境に良いことをしているか、わからないというわけです。ですが、仕入れた原料に対して同量の製品は100%バイオマスプラスチックですよ、ということができれば購入された方も地球のためのアクションになっていると実感できます。
小林 マスバランス方式はすでに紙(FSC認証)、電力(グリーン電力証書)などでも用いられて、普及のためにとても役立っています。普及させるためには最初は5%かもしれませんが、そこに価値をつけられれば、やがて10%にすることができますし、20%、30%と増やして、やがて100%になる日も来ると思うのです。また少しでも増やすことができればロット数も増やすことができて、結果的に原価を下げることができます。安くなればまた普及につながるという好循環ができてきます。徐々にステップを上げられれば良いわけです。
EB 「ステップ方式」と言い換えられそうです(笑)。0を1に、1を5に、と着実にステップアップさせることがマスバランス方式によって可能になるわけですよね。
小林 そう願いたいです。大事なことは今の生活を極端に変えることなく、カーボンニュートラルを実現することだと思います。それをサポートしてくれる概念がマスバランス方式です。今、さらなる追い風もあります。それはカーボンクレジットという考え方です。CO2の排出に罰金をかけたり、課税したりするのです。ヨーロッパでは国境炭素税というものが存在しますしね。逆にCO2の削減ができるバイオマス由来であれば、その割合に対して、税金を安くすることがヨーロッパでは始まっています。その結果安くて環境に良いものができるというわけです。これも先ほど申し上げた追跡性があり、可視化できることが重要になるわけです。見えるからこそお金になるというわけです。
EB なるほど! 「CO2をお金化する」ことはEBで特集を組みたいと思う、興味深いお話です。またの機会に勉強させてください。
小林 専門家もいますので、またこういう時間をいただければと思います。
EB とても良い循環のためにもまず第一歩を踏み出すことがいかに重要かということがわかります。4回にわたり、とてもためになるお話をありがとうございました。EBの読者も環境に優しいバイオマスプラスチックの意義をわかっていただけたと思います。ありがとうございます!
小林 こちらこそありがとうございました!