INTERVIEW

持続させるためには、無理をしないこと。 環境先進国フィンランドの文化に根付く「持続可能」な考え方とは?

持続させるためには、無理をしないこと。 環境先進国フィンランドの文化に根付く「持続可能」な考え方とは?

持続させるためには、無理をしないこと。 環境先進国フィンランドの文化に根付く「持続可能」な考え方とは?

日本では環境への関心が広がりつつあります。一方で、ここ数年使われ始めた「SDGs」や「エシカル」、「サステナビリティ」などの用語が同じ文脈のなかで使われていて、それぞれを明確に説明できる人は少ないのではないでしょうか。フィンランド大使館商務部でファッション、ライフスタイルをご担当されているラウラ・コピロウさんにインタビュー。一つ一つの用語を「わかりやすく語ること」こそがご自身の役目と。「大きくイノベーションはできないけれど、無理しない気持ち、自分らしくみんなでできることを浸透させたい」。日本の現状に寄り添いつつ、飾り気のない言葉で語られました。

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学生時代にはフィンランドを代表するブランド「マリメッコ」でアルバイトの経験もあるラウラさん。

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大使館に掲げられたフィンランドの文字が翻る旗。とてもクリーンな印象のデザイン。

ラウラ・コピロウさん(以下「ラウラ」と略) ラウラ・コピロウさん(以下「ラウラ」と略) 先に話しておくと、フィンランドでは、特に一般の人の会話では、SDGsについてほとんど語られないです。エシカルもあまり聞かない。サステナビリティという考えであれば、ビジネスでも毎日の生活の中でも以前から言われていますね。
EQUALLY BEAUTIFUL(以下「EB」と略) 日本とは捉え方が異なるのかもしれませんね。
ラウラ SDGsの内容は素晴らしいと思いますが、一般の方からすると、チェックリストのようにも感じられないでしょうか。『リストをつぶしていくこと』だけが目的にならなければいいのですが。エシカルが難しいのは、それが倫理や道徳、労働環境などに関係する用語なので、一般の方には親しみづらいことだと思います。
EB サステナビリティのほうが身近に伝えられて、みんなが責任を持ちやすくなるということですね。しかし、日本では多くの人々が「サステナビリティ」を身近に感じるとは言い難いのではないでしょうか。
ラウラ 日本人は『何か新しいことを始めなければならない』と思いがちではないでしょうか。例えば、フィンランドでは、Pure Waste(ピュア ウェイスト)のような100%のリサイクル素材のアパレルや、環境に配慮したプラスチックを使用する一方で、購入したものを大事にして長く使います。つまり、安いものを間に合わせのように買い、それをすぐ捨てたりはしません。最初から質の高い物を買い、長く大事に使います。日本に元々ある「もったいない精神」と通じるものがあるかもしれませんね。そうしたトラディショナルな精神を保ちつつ、新たに出てきたプラスチックの問題などにはイノベーティブに向き合っていく。私は、サステナビリティをその二軸で考えています。
EB そうしたフィンランドの精神はメーカー側にも表れていますよね。フィンランド最古のテキスタイルブランドであるフィンレイソン(Finlayson)が50年保証のベッドリネンを発売していますし、スピノバ(Spinnova)やインフィニテッド ファイバー(Infinited Fiber)といったスタートアップ企業が様々な廃棄物からリサイクル繊維を開発していると聞きました。アルテック(Artek)やニカリ(Nikari)といったブランドも、木製の家具を長く使ってもらうというマインドを持っていると思います。
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大使館のミーティングルームは木の家具がメイン。自然との対話が日々の生活の中にある。

ラウラ このフィンランドの木を使った家具も、すごくサステナブル。買う時には少し高く感じますが、質が良くて、長持ちするのです。あと、フィンランドのガラス製品にも変化が生まれ始めています。資源を大切に使うという考え方を大切にし、100%リサイクルガラスの商品を作ったり、不要になった食器を回収し、店頭で販売したり、他の産業の原料として提供しています。(と、フィンランドのデザインブランド「イッタラ(Iittala)」のリサイクルグラスを手に取りながら)。
EB 日本には「金継」と言われる陶磁器の修復方法があります。茶碗などが欠けた際に、その部分に漆を接着剤として使用し、金粉で見た目を整えるというものです。先ほど「もったいない精神」をあげていただいたように、サステナビリティは日本にも昔からある精神性なのかもしれません。ただ、日本はそれをSDGs、エシカル、サステナビリティといった言葉で表現することで、広く知ってもらおうとしているのが現状です。
ラウラ エシカルは日本語の文脈だと『エシカル消費』のように、消費に結びつくことが多いですよね。すべてに当てはまらないかもしれませんが、すぐには理解しづらいエシカルで訴えるより、サステナビリティと言い表した方がわかりやすいのではないかと思います。時にエシカルという言葉を使っているのを見て、誤用じゃないかと思うことがあります。本当はサステナビリティと言いたいのではないかと。
EB 広告のキャッチコピーのようにエシカルという言葉が使われているかもしれない、ということですよね。
サステナビリティは完璧でなくてもいい。無理をしたら結局続かないから。
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フィンランドと日本は似ているところがあるとラウラさん。これからのライフスタイルを考える意味でもフィンランドは注目したい。

EB ラウラさんから見た日本人の印象を教えていただけますか?
ラウラ 日本人はとても真面目で、すぐ0から100にしようとしますね。でもサステナビリティだと、そうはいかない。そういかなくてもいい。完璧主義に走るのではなく、すべては少しずつ、ほどほどに行っていくのが良いと思います。
EB まさに0から100という考えが、ビジネスの部分でもみんなの足かせになっているのではないのかと思います。間違ってはいけないと思うので、みんながガチガチになってしまい、チャレンジができない。それなら0のままでいようという考えに戻ってしまいます。まずはサステナビリティな部分で、できることから始めていく。完璧ではなく、今より“ベター”な状況を作っていき、そのことを継続していく姿勢が大切ですね。
ラウラ この前、行きつけのスイーツ屋さんをたずねたところ、テイクアウトの容器をよりサステナブルなものに変えていたのに、謝られたことがありました。『容器は変えたけど、スプーンはプラスチックのまま。中途半端ですよね』と店員さんがおっしゃったのです。でも私は、それでいいと思います。出来ることに限りがあるなかで、透明性や責任をもって取り組むのは素晴らしいことです。フィンランドでは、みんな無理はしません。ほどほどに、最初から100%を達成できないことも当然です。
EB  日本では、環境問題を考える人は「意識が高い」と揶揄されがちです。そのせいなのか、環境問題を考える人と考えない人の間で断絶が起きているように感じます。本当は自分ができることをやればいいので、断絶など起こることはないはずなのですが。
ラウラ 日本人は新しいものが大好きで、何かが流行るスピードは早いですよね。もしかしたら、環境問題も一種のブームとして盛り上がっているのかもしれません。一過性のもので終わらせないためには、わかりやすく、みんなで実行できるような内容にすることが大切です。
EB  企業から消費者まで、関係者全員にとってプラスになるような仕組みを作ることで、長く続くものとなり、文化として成熟していくのかもしれません。そうやって文化が醸成されていく中で、サステナビリティが色々なことを許容する言葉になっていけばいいと思っています。
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フィンランドのインテリアがそこかしこにある大使館。ゆとりある気持ちの良い空間だった。

ラウラ 文化という観点でお話しすると、日本は高度経済成長期の中で、もったいない精神を必要としない社会になってしまったように感じます。お金があるから、物は捨てていいという考えです。加えて、日本人はよく働きますよね。そうすると、生活にゆとりを持てなくなります。ゆとりが生まれて、立ち止まって考える時間があれば、もっと環境問題への関心が浸透するのではないでしょうか。今、新型感染症の影響でおうち時間が増えているので、多くの方々が自身の働き方をしっかりと考え直しているようです。自分らしい生活を意識するようになっているので、ゆとりもできやすい。
EB 確かに、新型感染症の流行が始まってから、自分の生活について考える時間が多くなりました。
ラウラ 家で過ごす時間の長さは、日々の暮らしを振り返るきっかけになりますからね。
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ラウラさんが手にしているサステナビリティについて書かれた本。手前はイッタラ(Iittala)の再生ガラス製のグラス。

ラウラ それから私が大事だと思っているのは、がんばりすぎないこと。がんばりすぎると、途中で疲れてしまいますよね。私が読んでいるこの本はサステナビリティについて分かりやすく書かれたものなのですが、実は出版社に原稿を出すタイミングが一日遅れたそうです。著者が完璧に作ろうとしていたからです。ですが、その時『サステナビリティというテーマ自体がそもそも完璧にできるようなことではないから、私の完璧に書こうとしている現在の姿はおかしい』と感じたそうです。そして、完璧ではない形で原稿を提出した。この話を聞いた時、サステナビリティは完璧には語れるものではなく、今できることから取り組んでいく必要があるのだという意識になりましたね。
EB 完璧さにこだわらないこと、身近にできることこそが重要というわけですね。
ラウラ 日本人は物事を、正解と不正解で分けてしまいがちですよね。サステナビリティとそうではないものと分けようとする。でもそれが正解ではないと思います。白でも黒でもないグレーという色があるように、物事には様々な側面があることを知らなくてはなりません。サステナビリティの問題だけではなくて、多様性にも繋がる話ですね。正解となるようなマニュアルがないということでもあるので、不安になるかもしれません。でも、少しずつ歩んでいくことが重要だと思います。
EB そうですよね。正解と不正解を作ってしまうことで選択肢が狭まっていきます。たくさん選択肢があるからこそ多様性に繋がり、イノベーションへと繋がっていきます。
ラウラ 無理をしない範囲で、出来ることから始めていくと、それが自分のメリットにもなるし、サステナビリティにも繋がる。そのための選択肢がたくさんあって、ストレスなく自由に選べるようになると嬉しいですよね。
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フィンランドといえばサウナ! フィンランド式サウナが大使館内にありました!

EQUALLY BEAUTIFULのテーマは「自分にいいことが地球にいいこと」。ラウラさんの考えと通じるものがあるのではないでしょうか。無理をしないことが最終的に、環境問題への継続的な取り組みに繋がっていきます。それが日本人はできないのか、それとも、できなくなってしまったのかは分かりません。ただ、確かにサステナビリティへの共通項は存在しています。このことを意識するようになれば日本の状況も少しずつ、進んでいくのではないでしょうか。
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ラウラ・コピロウ(Laura Kopilow)さん 
フィンランド大使館商務部商務官 フィンランド・エスポー市生まれ。 高校生の時に北海道・函館に留学し、その後早稲田大学に留学。国費留学生として北海道大学大学院に入学、修了。日本の大手企業に就職したのち、2018年からフィンランド大使館商務部でファッション・ライフスタイルを担当。日本人との幅広い交流をされている。
writer
Equally beautiful編集部
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