INTERVIEW

農業の未来を作るための冒険を。AgVentureLabが繋ぐ、次世代農業への道。

農業の未来を作るための冒険を。AgVentureLabが繋ぐ、次世代農業への道。

農業の未来を作るための冒険を。AgVentureLabが繋ぐ、次世代農業への道。

第一次産業である農業は私たちの「食」、つまり「生活」を支えるものです。食物を育てること。育てた食物を市場に出すこと。言葉にしてしまうとシンプルに思えてしまいますが、農業には気候、土壌環境、果てはその地域との関りなど複数の要因が絡み合っています。そこには、これからの農業を支える人々をどう育てていくのかといった問題も横たわっています。農業が私たちの生活の土台にあるのであれば、農業を取り巻く様々な課題は社会的な課題でもあります。JAグループ全国組織8団体が立ち上げたAgVentureLab(アグベンチャーラボ)は、そうした社会的課題を解決へ導くために新事業の創出や新サービスの開発に取り組んでいます。その活動はスタートアップ企業やパートナー企業・大学など、外部の知見やテクノロジーを活用しています。2019年の立ち上げから3年が経過したAgVentureLabの活動について話を伺いました。

AgVentureLab設立の目的のひとつは、第1次産業のサステナブルな存続と発展
EQUALLY BEAUTIFUL(以下「EB」と略) はじめに、AgVentureLabの成り立ちからお聞かせください。
後藤玲花さん(以下「後藤」と敬称略) この組織は、JAグループの全国組織8団体(※)が中核となり、2019年5月27日に設立。今年3周年を迎えました。設立の目的のひとつとして、第1次産業のサステナブルな存続と発展があります。この命題に対して、JAグループのほか、スタートアップ企業や大学とも協創して、取り組んでいこうというのが設立の経緯でもあります。私は広報業務を主として、豊橋市との連携や、アクセラの事務局も兼任しています。アクセラはJAアクセラレータープログラムの略で、簡単にいうと革新的な技術やアイデアを持ったスタートアップ企業を支援するためのものです。
※全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業協同組合連合会、農林中央金庫、一般社団法人家の光協会、株式会社日本農業新聞、全国厚生農業協同組合連合会、株式会社農協観光
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後藤 玲花(ごとう れいか)さん。広報担当。広報業務を中心に、豊橋市との連携や、アクセラの事務局としても 活動。

大岡浩之さん(以下「大岡」と敬称略) 分かりやすいところでいうと、農作業での労働負荷の軽減をアクセラの一環で行いました。農作業は、かなりの重労働です。加えて、農業従事者の方々の平均年齢は、年々上がっているという現実があります。労働負荷の軽減は重要な課題の一つです。そこで運搬用台車を、後付けで電動化できるキットを開発しました。この方法ですと、コストの負担が軽いというメリットもあります。
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大岡 浩之(おおおか ひろゆき)さん。アクセラ担当 兼 大学連携担当。アクセラレータープログラムの運営を中心に、大学連携ではOIST(沖縄科学技術大学院大学)、農工大、東大の連携窓口として活動。

EB 新しく農業に参入される方にとっても、コストを抑えられるのはありがたいかもしれませんね。ここ数年、気候変動が世界中で叫ばれていますが、そういった方面での事例はありますか?
川端太樹さん(以下「川端」と敬称略) アクプランタという会社の「Skeepon(スキーポン)」という製品に投資しています。お酢の力を活用して、植物が本来持っている耐性を引き出します。高温過多や乾燥に対する耐性を引き出し、気候変動に対応するということですね。酢酸がベースになっているので、地球にも人体にも優しいという利点もあります。
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川端 太樹(かわばた ひろき)さん。 CVC 担当。日本をはじめアジア・アフリカ等におけるフードテック、フィンテックやライフテック領域を担当。

川端 「Skeepon」のような製品は、将来起こり得る、あるいは既に進行している気候変動に対してのアプローチですが、その他の施策も視野にいれています。カリフォルニアの山火事など、毎年のようにニュースになっていますよね。該当地区の樹木の商業的な価値の低さや、カリフォルニア州の財政状況など、様々な事象が絡み合っていて、一口にこれが原因と言い切ることは難しいです。とはいえ、山火事が起きればCO2が排出され、環境汚染に繋がります。そうした世界の環境問題にアプローチできる解決策に対して、必要な資金を供給することも私達の使命と考えています。
EB 技術的な支援と、資金的な支援の両軸に取り組まれているという訳ですね。日本と海外の農業で課題となっている部分に共通点はありますか?
川端 農業とは、もともとローカルな産業です。したがって、その土地その土地に、紐づく農業の在り方があるものです。米国であれば、広大な土地をもとに、大きな機械で大規模かつ効率的に行うのが主流です。一方で私がよく行くインドネシアは、日本と同じように丘陵地が多く、大規模な農業を運営しにくい。そして彼らも島国なので、物理的に物流が分断されがちという現状があります。日本だと農協があり、効率化されたサプライチェーンがすでに整っていますが、アジアの国々では未だ分断されていて解決の糸口が見えていません。そうした個々に抱える問題を打破するためのスタートアッププロジェクトがどんどん出てきている状況にあります。
EB それぞれの国に、それぞれの課題があるのですね。
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川端 そうです。ほかにもイスラエルやシンガポールの例が特徴的かもしれません。国土が限られていて、耕地面積がほぼないに等しい一方で、彼らもまた数百万人の胃袋を満たさないといけない。食糧安全保障という文脈の中で、特にテクノロジーを駆使した農業に、彼らはとても関心が高いです。イスラエルではすでに点滴灌漑の技術開発が進み、相当大きなユニコーン企業も出てきています。
大岡 日本でもそうした企業を生み出すべく、私たちAgVentureLabがいます。先ほど後藤からも説明があった「JAアクセラレーター」というプロジェクトのもと、スタートアップ企業から応募のあった案件を年に1回、5〜10案件程度を採択して、重点的にお手伝いしています。昨年度は、インドご出身で、沖縄でスタートアップをなさっている方からご応募いただき、採択しました。この会社は、水を保持するポリマーを作っていて、小量の雨量でも農耕を成立させるという課題に取り組んでいます。しかも、その資材は完全オーガニックで作られているので、畑に撒いた後も、自然に分解されて土に戻っていくという素晴らしい物でした。私達AgVentureLabは同じようなビジョンを持っている組織と連携協定を結んでいまして、今回は北海道のとかち財団に話を繋ぎました。こうしたハブ的な役割が出来るのは持つ我々ならではの強みだと考えています。
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北海道とかち財団の協力のもと、ポリマー材の実証実験が実際の農地にて行われた時の様子。

後藤 ハブ的な話でいうと、若い人たちへの特別授業も行っていますよね。学生の皆さんに今の農業の実態を知ってもらい、興味をもっていただくことで、農業に関わる人口を少しでも増やしたいと思っているんです。
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EB 皆さんのお話を聞いていると、スタートアップ企業含めて様々な会社が農業に関わってきてるのだなと理解できます。一方で、農業には近代化が進んでいないというイメージもあるかと思うのですが、AgVentureLabの授業を受けて、どういう反応をされていますか?
川端 そういうイメージは少なからず、学生の皆さんは持っていますね。ですが、実際に話していくうちに、「今まで土いじりがメインだと思っていたが、ITの可能性もあるんだ」という声も出てきています。今はITを使ってデータ分析を行ない、旧来のノウハウを“見える化”して予測を立てて対処していくという方法も生まれているんです。肉体労働だけではなく、近代技術を駆使した頭脳労働で農業を効率化していけるんだ…ということを啓蒙していきたいですね。
大岡 若い世代は頭が柔らかいですから、意外と早くその日は来るんじゃないかなと僕は思っています。実際に先日、学生から面白いプランが上がってきたんです。作物の実り具合は肉眼で観測・管理することが多いのですが、カメラを導入することで花の位置を認識。実がなる位置を特定するというアイデアです。画像認識技術が進んで来たからこそのアイデアで、そうしたアイデアの種をきっちり育てていくのもAgVentureLabの役割ですよね。
後藤 そうですね。AgVentureLab自体立ち上がって間もない組織なので、自分たちに何が出来るのかを考えながら、とにかく挑戦していきたいです。また、私たちがスタートアップ企業や学生の皆さんを支援するように、AgVentureLabも多くの方たちに応援して欲しいんです。農業の関係人口を増やすのが、一番大事なことですから。そのための活動の一環として、今年の9月にオリジナルのクラフトビールを作りました。収穫後に出荷されず熟成が進んでしまい、廃棄されることになっていたリンゴ、日本酒を作るときに副産物として生じた酒かすなどを用いて、フードロス対策に貢献できるビールとなっています。このビールをきっかけに、一般の方々にもAgVentureLabの存在をぜひ知ってもらえたら嬉しいですね。
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AgVentureLabが大阪の中津ブルワリーに製造を委託、2022年9月8日に300本限定で一般発売された「異端児エール」。

農業と人々を繋ぐAgVentureLabの冒険は、まだまだ始まったばかり。これからどんな未来を描いていくのか、楽しみに待ちたいと思います。
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writer
Equally beautiful編集部
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