INTERVIEW

三菱鉛筆のベストセラー「ジェットストリーム」が、最先端のサステナブル仕様に。

三菱鉛筆のベストセラー「ジェットストリーム」が、最先端のサステナブル仕様に。

三菱鉛筆のベストセラー「ジェットストリーム」が、最先端のサステナブル仕様に。

“クセになる、なめらかな書き味。”をコンセプトに、2006年に誕生した「ジェットストリーム」。三菱鉛筆が誇るベストセラーボールペンに、海洋プラスチックごみ由来の再生材料をペン軸に再利用した新製品が誕生、話題を集めています。この新アイテムに、開発担当者はどんな思いを込めたのか。実現に至るまでにどのようなプロセスがあったのかを取材しました。

使い捨てない“常識”を醸成した、みんなのボールペン
仕事に、勉強に、誰もが日常的に使用するボールペン。なかでも低粘度でなめらかな書き味が魅力の三菱鉛筆の油性ボールペン「ジェットストリーム」は、シリーズ誕生から16年を経た現在も不動の人気を誇っています。
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低粘度なめらか油性ボールペンと呼ばれる、細字でもかすれずになめらかな優れた書き味は、それまでの油性ボールペンの概念を一新しました。

このシリーズが画期的だったのは、リフィール活用を積極的に打ち出したこと。ストレスフリーの書き心地をユーザーにアピールするべく、替芯を什器とともに文具店の店頭に置いたのです。芯を替えてペン軸を使い続けていくという高級ボールペンと変わらぬ発想を、一般消費財でも認知度を高めようとしてきたことは、廃棄物をできる限りなくしたいとするサステナブルなマインドとも共鳴しました。今日における“使い捨てない”意識をボールペン市場にて醸成したのは、この「ジェットストリーム」だったと言っても過言ではありません。
その人気シリーズに、新しく誕生したのがこちら、「ジェットストリーム 海洋プラスチック」です。エコマーク商品類型No.164「海洋プラスチックごみを再生利用した製品」を、文具業界で初めて取得したこの製品は、ユーザーに環境配慮へのさらなる関心を促すアイテムとして、再び注目を集めています。
商品開発を担った三菱鉛筆株式会社の藤川恵汰さんは、こう語ります。
「再生材を積極活用すること自体は、筆記具業界全体では過去から行っているとりくみであり、珍しいことではありません。 弊社としては、社会課題にもう一歩踏み込んで取り組みたいという思いがあり、そうした中で、海洋プラスチックごみの利活用を伊藤忠商事さんからご提案いただきました」
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三菱鉛筆株式会社 商品開発部 商品第二グループ係長 藤川恵汰さん

長く使い続けられる。長くつくり続けられる
商品名にも示されている通り、この新製品のペン軸には海洋プラスチックごみ由来の再生材が用いられています。伊藤忠商事が橋渡ししたのは、長崎県・対馬島に漂着した海洋プラスチックごみを清掃・粉砕したペレット材。対馬島では、海流にのって流されてきたたくさんのポリタンクが、海岸清掃を請け負うボランティア団体や地域の漁業組合によって集められています。
「このポリタンクは、ポリエチレン素材だけで成型されたものになります。 」(三菱鉛筆 藤川さん)
同じく再利用対象に選ばれたのが、使い捨てコンタクトレンズの回収ケースです。こちらはコンタクトレンズ販売店「コンタクトのアイシティ」の店頭にて、ユーザーが持ち込んだ 使用済みのコンタクト空ケースを清掃し、粉砕してペレット化しています。
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三菱鉛筆本社がある大井町駅前の「コンタクトアイシティ」店頭でもコンタクトの空ケース回収ボックスが常設されている。

「元々 、材料の候補としてコンタクトの空ケースを利用した再生材があり、開発担当のひとりが、HOYA・アイケアカンパニーさんに直接電話をかけて、商品の訴求にHOYA・アイケアカンパニーさんの社名を出せないかと相談したことで繋がりが生まれました。こちらも同一素材で、また純度が高く、再生材として魅力があると判断しました。加えて、身近な材料を再利用することで、環境問題に対する意識が高まるのではという思いもありました」(三菱鉛筆 藤川さん)
出自が明確な再生材料を、文具メーカーが主体となって利活用する姿勢が、既存のものづくりとは大きく異なる点です。そして「ジェットストリーム 海洋プラスチック」の穏やかなブルーは、海洋プラスチックごみの青色と、コンタクトレンズケースの乳白色が合わさってできた色。青色+乳白色=水色 だったのです。そこにわずかに着色することで色彩を落ち着かせています。
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海洋プラスチックごみ由来のペレット材(左)と、コンタクトケース由来のペレット材(中央)。両者を混ぜ合わせると、水色のペレット材になります(右)。

ペン軸をよく見ると、ペレットの混ざり具合により、濃いブルーの斑班 がところどころにあることが分かります。この個体差も、再生材料由来の循環製品であることの証といえそうです。
未来をつくる道具が、未来を汚してはならない
新製品のディテールをさらに見ていくと、三菱鉛筆の開発陣の努力の跡が見えてきます。例えば、ペン軸。ポストコンシューマー材を配合しつつも、ペン軸の強度を十分に担保しています。
「ペン軸本体のみならず、クリップについても、ノートに何度も挟むうちに折れ曲がらないように、通常品と比べても遜色のない耐久性能を実現しました。ペン先を押し出すノック機構についても、何万回もの操作に耐えられるようにテストを繰り返しています」(三菱鉛筆 藤川さん)
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再生材を循環利用する概念をスマ―トにビジュアル化した、メビウスの輪をモチーフにしたクリップデザイン。

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ノック操作の押し心地も良好。ペン軸は全面マット仕上げとしていて、握り心地もしっとり、手に馴染みます。

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金属パーツを使用せずに、嵌合(かんごう)部のねじ切りを工夫しています。クリップ脇には、ブランド名がスタイリッシュに型押しされています。ロゴが主張しすぎず、デザイン文具のようです。

それだけではありません。「ジェットストリーム 海洋プラスチック」は、リフィールを交換する際にペン軸を分解できるのですが、その嵌合(かんごう)形状を工夫。金属パーツを使用せず、敢えて1種類の再利用材だけで必要性能を満たしました。
「ペン軸表面をマット調のシボ加工仕上げとしたのは、握った指のズレを防止するため。したがってゴム材も使用していません。ボールペンとしての役目を終えた後にも、さらなるリサイクルを見据えた仕様です」(三菱鉛筆 藤川さん)
こうした設計思想とディテールに対するこだわりに加えて、この製品が複数企業による協業によって成立している事実も忘れてはなりません。一企業の取り組みよりも、複数企業が手を組み、社会全体を巻き込んで行くことのほうが意義深いのです。「ジェットストリーム 海洋プラスチック」は、2022年7月11日よりノベルティ専用商品として販売を開始していますが、通常品ではなくノベルティ専用としているのも、そんな理由からのようです。
「この製品をノベルティに活用してもうらうことで、多くの企業が環境問題への意識を表明・アピールすることに役立ててもらいたいという思いがあります。また、一般的に、ポストコンシューマー材を製品として使用するにはどうしても時間や手間がかかってしまいますが、それでも、私たちにとって取り組む意味があることを、この製品を通じて社会に問うていきたいと考えています」(三菱鉛筆 藤川さん)
時間やコストだけでは計れないモノに対する想い、それは愛着へと変わり、モノを大切に使い続けることにつながります。その心の変容が大切であることを「ジェットストリーム 海洋プラスチック」が、今一度気づかせてくれました。
writer
Equally beautiful編集部
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