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対馬市の海洋ごみをマテリアルリサイクル。リングスターの経営姿勢が、再生プラスチックの未来を変える!

対馬市の海洋ごみをマテリアルリサイクル。リングスターの経営姿勢が、再生プラスチックの未来を変える!

対馬市の海洋ごみをマテリアルリサイクル。リングスターの経営姿勢が、再生プラスチックの未来を変える!

工具箱専業メーカー「リングスター」が、長崎県対馬市に漂着した海洋ごみ問題に取り組んでいます。海岸に流れ着いたポリタンクをリサイクルした製品を発表して、話題を呼んでいるのです。海を渡ってきたプラスチックは、摩擦や紫外線による悪影響を受け、素材そのものが傷んでいます。それをリサイクル素材として活用するのは、多大な手間とコストがかかるのです。それでもリングスターが製品化を試みた理由とは? 同社取締役 室長・唐金祐太(からかね・ゆうた)さんのインタビューを交えてお伝えします。

TOP画像:リングスター 取締役 室長・唐金祐太(からかね・ゆうた)さん。手に持っているのが「対馬オーシャンプラスチックバスケット(レギュラーサイズ465)。座台としているのが、「対馬オーシャンプラスチックボックス(4700)」。
グリーンウォッシュとならないために、情報は包み隠さず提供
「僕が今までプラスチック問題について疑問に思っていたのが、『この原料を使うと社会が良くなります』と誰ひとりとして言っていないこと。皆さんが言うのは、『51%混ぜたら石油製品じゃなくなるので捨てることができます』『マーケティングで使えます』ということでした。ビジネス視点としては仕方のないことですが、僕としては憤りがあったんですね」
そう話すのは、リングスター取締役 室長の唐金祐太さん。明治時代に創業した老舗工具メーカーの跡取りです。
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今でこそ当たり前に思えますが、工具箱が鉄製からプラスチック製へと移っていった当初、落としてヒビ割れたり、中身の仕切りが割れて整頓した工具がぐちゃぐちゃに混ざることが日常茶飯事だったそうです。その課題を世界でいち早く解決したのがリングスターでした。
同社は自動車のバンパー材に目をつけ、これを工具箱素材に応用。ポリプロピレンにゴム材を融合させることで、プラスチックに弾性を生み出したのです。長く使えることが地球環境問題に貢献するとして、リングスターはこれまで“壊れない工具箱”を製造してきました。
「しかし対馬市の現状を見て、僕らは耐久消費財を作っているから関係ない、では済まされないと思ったんですよ」
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対馬島に流れ着く海洋ごみ。

2022年9月、対馬市、伊藤忠商事ほか民間企業数社によるスタディーツアーが開催されました。唐金さんも参加者のひとりとして、対馬市に漂着するごみの現状を目の当たりにしたのです。
「報道で見聞してきたことより圧倒的にひどく、一面がごみの山。歩くこともままならないし、現場では発泡スチロールが昼夜を問わず、舞っていました。台風が去った後や、大規模清掃が入った直後は、状況が一時的に収まるものの、3ヶ月もしたらまたもとに戻ってしまうそうです」
長崎県対馬島は、韓国・釜山と福岡をつなぐちょうど中間地点にある島です。この辺りは対馬海峡と言って、南から北に流れる海流と、北西に吹く偏西風が交差します。なおかつリアス式海岸による複雑な入江により、ちょうど島全体が防波堤のようになり、大陸側からのごみが集まります。唐金さんは、「この対馬市のごみ問題の手伝いをしたうえで、自分たちの事業も叶えることが、企業としての役目なんじゃないか」と思ったそうです。
さて、海洋プラスチックには2種類の定義があります。ひとつがオーシャンバウンドプラスチック……海岸から50キロ圏内にある陸地のごみを指し、将来的に海に流れ出てしまう可能性のあるごみです。そして、ふたつめがオーシャンプラスチック……海洋ないしは河川に実際にあったごみを指します。その多くが、波や紫外線にさらされて、ひどく劣化しています。
「我々が、本当に着目しなければならないのは、後者の方です。しかし調べてみると、オーシャンプラスチックに対してなんらかの手を打っているのは、わずか数社しかありませんでした。素材劣化がほとんど見られない前者のほうが、圧倒的にリサイクルしやすいからです。どちらも対策を打つ必要があることには変わりませんが、どうもまだ定義が広すぎて、一歩間違えると、グリーンウォッシュ(※)になるという印象です」

※greenwashing 環境に配慮しているように装い、上辺だけの環境訴求を行うこと。
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対馬島に漂着するポリタンク。擦れのほか、紫外線による劣化損傷も見受けられます。

唐金さんが着目したのは、濃いブルーのポリタンクで、それらは韓国から来ていることが判明しています。ポリタンクの用途は過酸化水素水の運搬。韓国海苔の養殖場で、漁業関係者が虫や細菌がつかないように散布します。過酸化水素水ですから毒性はないものの、散布してそのまま海にポイッと捨ててしまうとか。対馬市の仮説によると、1年間に1000〜2000個が流れ着いている計算です。
「他にもごみはたくさんあるんですが、洗浄できるかどうか、安全かどうかが示されなければ、取り組むことができません。単一素材として狙い撃ちできることも、再利用できる現段階での最適解でした」
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対象のポリタンクを対馬市が分別して粉砕。ペレット化されたものを大阪に運び、再度、洗浄、検品、分別。洗浄は複数回行います。こうして出来上がったものを、無着色(白濁)のバージン・ポリプロピレンに混ぜて原料として使用します。

ただし、そのポリタンクはポリエチレンという素材で、リングスター製工具箱の主原料であるポリプロピレンともまた異なる素材です。同じプラスチックといっても組成が異なるので、当初、技術者には「できない」と断られてしまいました。ところが唐金さんは諦めずに「できないことをやってみる、できるようにするのが進歩なんじゃなかいか」と、技術者たちと膝を突き合わせ、なんとか製品化にこぎつけます。ただし、強度を落とさず、既存のスペックと同等を保つには、今の技術では全体の10%を混入させるまでが限界だったそうです。
「10%っていうと、ちょっと少ないのでは? と言われるんですけど、企業としての大切な責任は、それがどこから来て、どれだけを使って、世の中をどう変えたのかを説明することだと思っています。一方で、今の風潮では『海洋プラスチックを一部に配合』という曖昧な表現をする。それでは消費者はわからなくなるんですよね。ですからリングスターでは、プロセス、配合量、ごみの削減量を包み隠さず公開しています」
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2023年11月16日現在、同プロジェクトの製品はバスケットタイプ1500個、ボックスタイプ600個を生産。これにより合計270個分(※その他、ブランドコラボレーション製品を合わせると、合計444個分)のポリタンクが再生されています。また再生ポリタンク100gにつき100円を対馬市へ寄付、現在44万4000円が納められています。

透明性を上げれば、皆んなが考えられるようになる
唐金さんは、この事業の目的を「正しく選んで、正しく捨てて、正しく向き合う」世の中にしていくことと話します。
「ただ単に対馬市のごみを減らしていくだけなら、対処療法にしかなりません。そもそもごみが流れ着かない世界を実現したい。もしかしたら僕の世代では叶わないかもしれないけれど、その意思を子供たちが受け継いで、将来的に解決できればいい。この事業を今始める理由は、そこにあると僕は思っています」
ちなみに対馬市に流れ着くごみは、大陸側からのものと先述しましたが、じつは日本から出ているゴミは海流に乗るとハワイに行き着きます。ハワイでは、日本のごみが問題になっているのです。ともすると、このごみは◯◯から来ているのか……◯◯はけしからん、というような論調になりがちですが、実際はお互いさまで、海洋ごみは世界の海を巡っています。
そもそも海洋ごみを出さないという意識改革なしに、地球環境問題は改善していかないのです。
「亀にストローが刺さっているセンセーショナルな映像もありますが、そもそもプラスチックだってちゃんと捨てたら問題ないはずなんです。それができないならプラスチックを使わない……ではなく、もっと現実的にどうしたら今の枠組みを生かせるかを考えないといけない。そのきっかけのひとつを作りたいと思っています」
唐金さんの姿勢は、すべて自分ごとです。その課題が自分の世代で解決できなかったとしても、持続可能な取り組みとすることで、次世代への橋渡しを見据えています。
「自分のことしか考えないから、『これを51%混ぜたら石油製品ではなくなる』という発想が出てくるんです。そうではなくて、ちゃんと次世代に託していこうという思想があれば、世の中はもっとちゃんと回るはずなんです」
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ボックスふた裏側の格子は、強度を高めるための構造。自社一貫生産のリングスターでは、機能向上のためのノウハウが、日々積み重ねられています。

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ランダムな斑点は、再生ポリエチレン(濃いブルー)と、バージンポリプロピレン(白濁)の融点の差異で、両者が完全に混ざり合わない理由でできるもの。したがって同じ模様はできません。

そんな唐金さんに、次なるアクションを聞いてみると……
「やっぱりオーシャンプラスチックのリサイクルコストは、非常に高いというのが現実です。でも、そのコストは、社会に正しく理解されなければいけないとも思ってます。ですから今後は、僕たちの思想に共感してくれるブランドを増やしていくことを目指します」
2024年1月にフランス・パリで開催される雑貨展示会「メゾン・エ・オブジェ」に、リングスターは出店を予定。海外ブランドとの協業も視野に入れながら、日本だけでなく対岸からも海洋ごみが流れ着かない意識改革を発信していくのが狙いです。
この事例をきっかけに、大手メーカーへと取り組みが波及していけば、海洋ごみが減っていく世界へとシフトチェンジすることが可能です。「その意味でも、この商品の存在をもっと広く届けたい。僕自身の覚悟は決まっています」と、唐金さんは未来を見つめて語ります。
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リングスター
http://www.ringstar.co.jp/
writer
Equally beautiful編集部
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