まさに発想転換の勝利。ニーズが高く、コストがとても合理的
「CIRCULAR FARM循環テクノロジー」を端的に表現するならば、「着終わった衣類を畑の肥料に変え、その肥料で育てた安心安全な野菜をもう一度消費者に届ける」経済循環システムです。
「これまで、衣類のリサイルというと、糸に戻してもう一度、服に仕立てる方法が実施されてきましたが、じつはとてもコストがかかるやり方。生まれ変わったリサイクル衣料は、高価になってしまうんです。それゆえ意識の高い人々からの支持は得ているものの、マス層を巻き込む動きにはなっていないという現実がありました」
そう語るのは、CRESAVA代表取締役の園部皓志さんです。
“ファッション産業は、石油産業に次ぐ、世界第2位の環境汚染産業である”と国連貿易開発会議「UNCTAD」が指摘していますが、いまだ解決に向けた決定打が見い出せていないのが現状。日本国内では、衣類の新規供給量は計81.9万トン(2020年)とも言われていますが、それらがリサイクル・リユースされる割合は約34%。つまり毎年50万トンを超える衣類が、廃棄されている現実があるのです。
CRESAVA代表取締役 園部皓志(そのべ・ひろし)さん。2012年にLONDON COLLEGE OF FASHION卒業。E.V.I. incを経て、2015年にユニクロを展開するファーストリテイリングに入社。メンズチームのグローバルファッションデザイナー職に従事。スーパーノンアイロンシャツがヒットに。2018年に退職し、CRESAVAの代表に就任。
そうしたなかでCRESAVAが提案するのは、服を服としてリサイクルするのではなく、服を肥料にして土に戻し、農業の活性化に結びつける方法。業界をまたいで衣から食へのリサイクルの循環を描いた発想そのものが斬新です。
「『CIRCULAR FARM循環システム』は、導入コストが現実的です。生まれ変わった肥料は、農家の皆さんがこれまで購入してきた肥料と価格差がありません。理由は、回収後に最もコストがかかる分別に、人の手を介在させないから。コストが消費者に転嫁されず、農家の皆さんも、消費者もこれまで通りの生産・消費行動を行うことが可能です。そのうえで安心安全・低価格・社会貢献という、3つのメリットがもたらされます」(園部さん)
ここで、CRESAVAが開発した衣類を肥料にする具体的な流れを見ていきましょう。
STEP 1 破砕
回収した衣類を破砕機に入れます。天然繊維のみならず、化学繊維なども選り分けません。さらには、ファスナー、ボタン類もついたまま。分別せずに、同時に破砕してしまいます。その後、繊維以外の物質は機械で自動的に選り分けます(※選り分けた繊維以外のものも、別途、農業部材に活用するなどできる限り再利用を進めています)。
↓
STEP 2 粉砕
破砕した素材を、粉砕機でさらに細かく、糸状の繊維にまで粉砕します。このプロセスにより、後工程の発酵が促進されます。
↓
STEP 3 発酵
粉砕した繊維を有機物(一般的には籾殻、米ぬか、大豆、おからなど)と混ぜて自然発酵させます。微生物による分解が進み、健康な土壌を育む肥料となります。発酵に使用する有機物も、もともと廃棄されるはずだったものを回収し、有効活用(アップサイクル)しています。
↓
STEP 4 ペレット
発酵後、1〜2cm程度の円柱型ペレットに造粒(ぞうりゅう)します。農家の方々の声を反映し、農業機械で広範囲に撒くことができる最も効率的な形状がペレット型でした。この肥料が土壌のなかの微生物を活性化させ、土壌の健康維持と、農作物の栄養価の向上に貢献します。
大きな流れでいうと上記4ステップにまとまるのですが、園部さんは、こう続けます。
「天然繊維だけを肥料化しても衣類の大量廃棄の削減にはつながらないため、石油由来の化学繊維を同様に肥料化する研究を重ねた結果、バイオテクノロジーの応用で、化学繊維を無害化することに成功しました。これはCIRCULAR FARMにとって重要なイノベーションです。CO2やマイクロプラスチックも出さないため、このテクノロジーは衣類廃棄の課題解決に大きく貢献する第一歩となります」
では、なぜ園部さんはそこに着眼することができたのでしょうか?
「BBCの報道番組を見ていて、閃きました。当時、日本で100万トン、世界では4200万トンの廃棄衣類が毎年出ていると。その回収を行うというサステナブルイノベーションが不可欠と思ったのです」(園部さん)
CRESAVAの設立は2017年。2018年に園部さんはCRESAVAの代表に就任しますが、それまではグローバルブランドや日本ブランドでデザインを担当されていました。ゆえに衣類を通じて人々の生活をどう改善できるか、という視点が常にあったそうです。特に日本のファストファッションが提供する、服地の機能性を軸にした生活改善サービスが、世界をスピーディに塗り変えていったことを肌身で感じてきたと言います。
「低価格・高品質という日本のファストファッションは、世界に誇れる商材です。ならばそこにもうひとつ、地球環境にプラスになる循環を作ることができるならば、日本の衣類産業はさらに拡大できると想定しました」(園部さん)
時を同じくして、園部さんは京都府南丹市美山地方の京野菜農家の方々と出会いました。そして、農家の皆さんの「安心安全な肥料を使いたい」「でも、昨今の土壌改良材はますます高価になっており、とても使いづらい」というニーズを耳にしたそうです。つまりBBCの番組がトリガーとなり、京野菜農家の皆さんのニーズと、大学などの研究機関との連携により培ったバイオテクノロジーの知見が、園部さんのなかでひとつに合わさりました。
京都府南丹市美山地方にあるCRESAVAの自社農園。生み出された肥料を活用して、病害の少ない、安心安全な京野菜作りが行なわれています。
それではCRESAVAがなぜいま、「CIRCULAR FARM MUSEUM」の展示会を一般向けに無料で開催しているのでしょう? その理由は「社会を巻き込んで意識改革を起こしたいから」だと、園部さんは訴えます。
こちらは、CIRCULER FARM MUSEUMの展示スペースのひと部屋。CRESAVAが提案する循環テクノロジーの概要説明をはじめ、実際に作られた肥料ペレットが展示されています。付帯するマルシェでは衣類から作られた肥料が撒かれた畑の農作物を原料にした、京都の食品加工品が販売されています。また併設のカフェでは美山の豆乳や黒豆のルイボスティーなどのメニューが楽しめます。
すでにCRESAVAの活動に賛同する企業が、使用済み衣類の回収をはじめています。それらは肥料となり、CRESAVAが持つ京都府の自社農園の畑に撒かれ、そこで採れた野菜の一部はリサイクルの協力者に届けられたり、その肥料を用いた企業独自の農園作りに利用されています。
CIRCULAR FARMの回収型カウンターでは、およそ4キロ(1キロ8着として32着程度)の廃棄衣類の回収協力者に対して、CRESAVAの野菜を届けるというプランが実現していますが、その輪をさらに拡大していくのが園部さんの狙いです。
「私達は、単に回収処理班ではありません。私達には思いがあり、社会課題を解決したいという目的があります。そのためにも、皆さんと価値観を共有するために、この展示会を開いています。この循環を広げて、企業や自治体を巻き込み、やがては海外にも波及させていきたいと思っています」(園部さん)
CIRCULAR FARM循環テクノロジーの利点は、なんといっても確かなニーズがあること。莫大な廃棄衣類に対し、現実的に次の価値を生み出していることです。衣から食へ、人々の生活に根源的に必要とされる分野同士の橋渡しをしているところも本質的と言えましょう。そのうえコストが見合っている点が見逃せません。ファッションも、安心な食事も、お手ごろな価格も、私達は何も諦めずに、社会課題に取り組めるのです。
大量生産・大量廃棄の産業社会から、サステナブルでスマートな循環型社会へ。私達は今、社会がドラスティックに変わっていく萌芽を、目の当たりにしているのかもしれません。
CIRCULER FARM MUSEUM
会期 2023年7月23日まで(期間限定)
場所 東急プラザ銀座7F
営業時間 11:00-19:00 ※カフェは18:00まで営業
主催 CRESAVA株式会社 / アルーフホーム株式会社
お問い合わせ先 CIRCULAR FARM MUSEUM TEL03-6274-6658
https://ginza.tokyu-plaza.com/shop/detail.html?_id=21900