ガーナの水パックを回収・リメイク。雇用を生み、環境が改善していく
いきなりですが下の画像。こちらは「CLOUDY」が活動するアフリカ・ガーナの首都「アクラ」のスラム地域の画像です。アクラは、近代的なビルが立ち並ぶ発展都市である一方で、こうしたゴミが山積するスラム地域が今なお存在すると言います。
「街なかのゴミを清掃するという文化が全然ないんです。現地付近には、ゴミ収集車もいない状況。西アフリカ最大のゴミ山とは、東京ドーム35個分とも言われています」(CLOUDY代表 銅冶勇人さん)
このスラム地域には、およそ20万人の人々が生活しています。埋め立てエリアではなく、街中の一角というのが驚きですが、銅冶さん曰く「最終的に生活できなくなった人たちが、そのエリアに住み着いてしまい、もうそこでしか生活できない」という貧困の現実があるそうです。
彼らは、このゴミ山からお金になるものを拾って生きています。たとえば電子部品。それを燃やして、わずかばかりの金(※素材としての金)を集めます。ところが、このことで深刻な大気汚染が発生、スラム街住人の平均寿命は38歳とも言われています。
そこで、銅冶さん率いるCLOUDYチームが手掛けたのは、1キロのゴミを約10円で買い取る施策でした。身の回りのゴミを片付ける行為に、まずは慣れてもらうことが狙いと言います。
「ただ指摘したところで、その意義に納得して、行動してくれる人は多くありません。そこに賃金を発生させることで、彼ら自身の生活の足しになり、身の回りの環境が少しずつでも改善していく、そういったサイクルを生み出すために、彼らの生活ゴミの大半を占める、彼らが日常的に使っているピュアウォーターという水のパックを有償で引き取ることにしたんです」(銅冶さん)
銅冶勇人(どうや・ゆうと)さん。東京生まれ。2008年、慶應義塾大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。2010年に認定特定非営利活動法人Doooooooo(現在は「認定特定非営利活動法人CLOUDY」)創立。2015年に同証券会社を退職し、株式会社DOYA創立。同年9月にアパレルブランド「CLOUDY」創設。WEB http://cloudy-tokyo.com/
日本ではペットボトル容器に詰められている飲料水ですが、ガーナでは500mLの小さなポリ袋が利用されています。その飲み終えた袋が、街のいたるところに、ポイポイ捨てられているのです。これを一定量集めてきたら、CLOUDYチームが買い取ります。
集まった袋は捨てず、洗って乾かした後、シート状につなぎます。そのシートを使って、今はトートバッグを作っています。生地の補強を行い、ある程度の重量(日常で持ち歩く想定で、10キロぐらい)は十分に対応するそうです。
「自分たちが生活で使う川もゴミで埋もれてしまって、水が枯渇しているんです。そういったことも、自分たちの生活を苦しめている要因になっていると思うんですね。ゴミをきちんと捨てる習慣の大切さを、ガーナの人たちに認識してもらう。その意味でも、プロジェクトの意義を感じています」(銅冶さん)
1キロ=約10円。週5日、4週間で20日。つまり1か月で約200円。この対価の大小を日本人の感覚で推し量ることはできませんが、少なからず生活の支えとなるはずです。ここで銅冶さんが力点を置くのは、彼らと目線を合わせること。私たちにとっての正解を、ガーナの皆さんに一方的に押し付けてはいけないと言います。
「我々が“当たり前”と思ってることが、彼らの“当たり前”ではありません。我々が思う概念と、彼らが思う概念とは、圧倒的に違うんです。文化が違いますし、生活してきたスタイルも違います。彼らに寄り添って、問題を一緒に考えて、どう解決に近い形へと導いていくか。これは、どのレベルでも、どの地域でも、あるいは日本の中でも言えることだと思います」(銅冶さん)
防水仕様で、これからの季節、水辺に持っていくにも使いやすそう。Mサイズ1650円、Lサイズ2750円(ともに税込)。
単なるTシャツにあらず! CLOUDYが手掛ける無水染色生地とは?
さて、「CLOUDY」の店頭に並ぶさまざまなデザインのTシャツは、一部が“無水染色”という技術によって生み出されています。無水染色とは、聞き慣れない言葉ですよね? 実は廃棄される衣類を色ごとに分別して、一旦、綿の状態まで戻し、そこから糸を再生して、もう一度編み立てているのです。
「たくさん物を作って安く売る。在庫が残って大量廃棄となっても利益が出る。ゆえに、ビジネスとして成り立ってしまっているんですね。加えて、コットンのTシャツ1枚を作るにあたり、通常は2,700〜2,800 Lぐらいの水を染色時に使いますが、無水染色生地ならすでに色が付いていますから、染め直す必要がありません。水の使用量が大幅に減り、廃棄についても、相当な分量が解決されます」(銅冶さん)
無水染色生地には、ところどころに撚り(ねじり)があります。これは、はじめの生地の色が残ってしまったもの。色別に分けるとはいっても、100%完璧には分けられず、わずかに残ってしまった異なる色の部分が綿となり、糸となり、一緒に編まれてしまうのです。
「その撚りを、あえて無水染色の特徴と捉えていただいて、着用するたびに、素材のことを考えてもらえるといいんじゃないかと判断しています」(銅冶さん)
取材班は、店頭で使用されているハンガーにも注目しました。こちらは、CLOUDYが『山櫻』という製紙メーカーと共同開発したもの。間伐材のみを使用した森林認証紙を使用しているそうです。
もうひとつ、お知らせしたいのがCLOUDYの「I’m NOT perfect」の取り組み。こちらは当初、CLOUDYの特別イベントとしてスタートしたものです。
「我々の製品づくりで出てしまったB品、店頭に並べることができなかった商品について、お客様にお値段を決めていただいて、その全額をNPOに寄付する。そうしたイベントが、ことの始まりでした。我々はガーナに自社工場を構えていますが、製造スタッフ1人1人の技術のレベルが違い、トレーニング途中の人たちもいます。糸のほつれ、撚れ、ミシンの縫い跡の蛇行、プリントのズレ……、そうしたB品を廃棄せず、それらを他と違う“特徴”と捉えたときに、より魅力に感じられることもあるんじゃないか、と」(銅冶さん)
「不完全なものが逆に個性的」という価値観を提示する「I’m NOT perfect」。このコンセプトは、今では他社とも共有され、新たな製品が生まれています。そのひとつが、米国発ステンレスボトルブランドmizuとコラボレートしたボトルです(
https://cloudy-tokyo.com/information/im-not-perfect-bottle-/)。
内容量450mlのステンレスボトル。飲み口はフリップ式で開閉。在庫僅少4180円(税込)。
「mizuさんが店頭で売ることができなかった、少し傷があったり凹みがあったりするようなボトルを我々が安価で買わせていただき、『I’m NOT perfect』プリントを付け、お客様1人ひとりにご説明しながら販売しています。もちろん、すべて問題なく使えるものです。これにより廃棄問題も解決でき、今では、私たちのヒット商品のひとつとなっています」(銅冶さん)
傷や凹みに対し、あえて大きく手を加えずに、ありのままの価値を再定義する……。これは、究極のアップサイクルなのかもしれません。社会貢献がスマートに製品へと落とし込まれ、見た目のスタイリッシュさとともに魅力的な商品に仕立てられています。
CLOUDYは、アフリカ・ガーナ特有のビビッドな模様・色使いで、心地良いフィールを提供するアパレルブランドですが、それと同時に、誇れる個性を演出する手段をも提供している、というわけですね! 周囲の目を気にせず、自分が使うモノの価値は自分で決めるという姿勢が、ファッションとスマートに結びついています。そんなスタンスが、既存のアパレルブランドとは異なり、共感を呼んでいるのだと感じました。