海洋ごみをなくしたい。そのために必要な地域住民の行動変容をどう導くか?
環境省による令和4年度の「ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン推進事業」(※1)に、大阪府門真市(※2)が選出されました。その一環として、使用済みステンレス製ボトルの回収と再資源化が実施されています。まずは下図をご覧ください。ステンレス製ボトルをより効率的に再資源化するために、普段のごみ回収とは別に地域住民にリサイクル行動を促しています。
※1
自治体と企業等が連携した海洋ごみの回収・発生抑制対策等を実効性の高い持続可能な取り組みとするため、環境省がモデル事業を実施する自治体を募集。事業プランの作成、連携体制の構築、効果・課題の検証等のサポートを行います。2022年6月に発表された令和4年度の実施自治体には、大阪府・広島県・和歌山市・門真市が選出されました。
※2
大阪市に隣接する門真(かどま)市は、人口11万人を超える関西圏の重要なベッドタウン。タイガー魔法瓶本社のほかパナソニック本社があり、市の中央には寝屋川につながる一級河川、古川が流れています。門真市自体は海に接していませんが、ますます増えていく市内のごみ問題を解決する目的で、今回の取り組みが行なわれています。
自治体と企業等が連携した海洋ごみの回収・発生抑制対策等を実効性の高い持続可能な取り組みとするため、環境省がモデル事業を実施する自治体を募集。事業プランの作成、連携体制の構築、効果・課題の検証等のサポートを行います。2022年6月に発表された令和4年度の実施自治体には、大阪府・広島県・和歌山市・門真市が選出されました。
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大阪市に隣接する門真(かどま)市は、人口11万人を超える関西圏の重要なベッドタウン。タイガー魔法瓶本社のほかパナソニック本社があり、市の中央には寝屋川につながる一級河川、古川が流れています。門真市自体は海に接していませんが、ますます増えていく市内のごみ問題を解決する目的で、今回の取り組みが行なわれています。
市内にある全20の小・中学校、市役所、市の公民館施設にステンレス製ボトル専用の回収ボックスを設置。地域住民の皆さんが積極的に協力してもらえるように、広報紙や行政のSNSでも呼びかけていくそうです。
このスキームを作り上げたのが「タイガー魔法瓶」。回収対象のステンレス製ボトルはメーカーを問わず、ステンレス製でしたら受付OKです。
回収した使用済みステンレス製ボトルは素材メーカーに戻され、新品のステンレス材料として生まれ変わります。じつはステンレススチールという素材は、リサイクルされることを前提に供給が成り立っていて、原料の約60%はリサイクルされた再生ステンレスが活用されています。特にステンレス製ボトルの素材になる「SUS304」は、希少なニッケルが豊富に含まれていることから、そのすべてを新規原料で賄うと、とても高額になるのです。
こうした背景もあり、日本国内でもステンレススチール材のリサイクル運用はすでに進んでいます。数字で示すとリサイクル達成率およそ80%。私たちが意図せず不燃ごみとして出したステンレススチール製品も、一旦は多種多様な金属製品(この状態をミックスメタルと呼ぶそうです)として回収されますが、その中からリサイクル業者が入念に選別。かつては全工程で人の手を介した選別作業も、機械化が進んでいます。
新品に生まれ変わったステンレススチール材は、世の中のあらゆるステンレススチール製品となります。腕時計やカメラ、食器、台所のシンク……あらゆる用途・形となり、社会に戻され、循環しているわけです。もちろん生まれ変わった新材料は、「タイガー魔法瓶」にも納入され、新たなボトルに生まれ変わります。
そうした現状がすでにあるなかで、改めてステンレス製ボトルをリサイクル回収する意図はどこにあるのかと、疑問が浮かぶことでしょう。たしかにステンレス製ボトルだけを選別して集められれば、多種多様な金属からステンレスを選り分ける手間が省けます。不純物が混入するリスクも、これまで以上に低減できるでしょう。しかし「タイガー魔法瓶」が思い描くのは、その先でした。
「タイガー魔法瓶」真空断熱ボトル ブランドマネージャーの南村 紀史(みなみむら のりひと)さんは、こう語ります。
「私達が期待しているのは、地域住民の皆さんの行動変容です。不必要になったステンレス製ボトルを回収ボックスに入れていただいたことで、そのボトルが次にどうなっていくのだろうと、思いを馳せていただけると思うんです。その意識こそが、環境課題を身近なものにすると考えています」
タイガー魔法瓶 真空断熱ボトル ブランドマネージャーの南村 紀史(みなみむら のりひと)さん
・ステンレススチール材とは、リサイクルを前提に供給が成り立っていること
・循環型ものづくりの視点で捉えても、ステンレス材が理に適った材料であること
・循環型ものづくりの視点で捉えても、ステンレス材が理に適った材料であること
これらは筆者自身、今回の話を聞くなかで、はじめて知ったことです。そして、この知識を得て、ステンレス製ボトルに対する気持ちがプラスに動きました。
「海洋ごみにつながる使い捨てプラスチック容器の利用回数を減らし、循環型ものづくりが進むステンレス製ボトルを活用していただく。そのきっかけとしてステンレス製ボトルの回収体験を位置づけています。こうした過程を経た皆さんは、ペットボトル飲料を買い求めたとしても行き場のないごみにせず、リサイクルにつなげる行動をとるに違いありません」(南村さん)
日本国内のペットボトル容器のリサイクルは85%を超えているとも言われています(※3)。つまり、数字上ではステンレススチール材のリサイクル状況に引けを取っていません。それでも海洋汚染がなくなっていない、という現実があるのです。やはり、消費者のリサイクルに対する行動変容が重要です。
※3 PETボトルリサイクル推進協議会調べ(https://www.petbottle-rec.gr.jp/data/calculate.html)
門真市役所職員の皆さんは、まず陣頭を切って自らの姿勢を示すべく、市職員のマイボトル所持率100%を宣言しました。職員全員で、行動変容を地域住民に見せるというのですから、これはとても強い覚悟です。
メーカーとして、プロダクトを生み出す責任を果たす
2023年に創立100周年を迎えた「タイガー魔法瓶」ですが、その記念年に先立つこと3年前の2020年、次の100年を見据えて、ボトルづくりに込める想いを打ち出しました。その骨子は、公式ホームページにも記されている「4つ約束」に記されています。
さらに具体的なアクションとして、ステンレス製ボトルの回収、リサイクルのスキームを整備。2021年には京都府亀岡市でボトル回収事業をスタートしています。その成功事例が、今回の大阪府門真市との協定に結びつきました。そして同様の取り組みを、今後も複数の自治体で行うべく、準備が進められています。
「タイガー魔法瓶」の協業先は、自治体にとどまりません。例えば、福岡ソフトバンクホークス。昨年は3日間限定で、球場内のマイボトル推進活動が行なわれましたが、その成功を受けて、今後は長期的に取り組んでいくことが予定されています。
京阪ホテルズ&リゾーツが運営する京都駅前のフラッグシップホテル「ザ・サウザンド京都」では、ゲストに対してステンレス製ボトルの貸し出しを行い、滞在中にマイボトル体験をしてもらう試みを行っています。この取り組みも「タイガー魔法瓶」との協業によるもの。トップ画像のボトルが「ザ・サウザンド京都」で貸し出されているタイガー魔法瓶製のボトルです。「海外からお越しになったお客様たちのリアクションも上々です」と、南村さんは話します。
メーカーの責務を示し、社会課題に挑戦していく「タイガー魔法瓶」。その思いが、すでにさまざまな活動に結びついています。価値あるプロダクトをつくるのはもちろんですが、こうした社会貢献で、ブランドへの共感が醸成されていくのだと思います。何より、今回の取材に応対していただいた南村さんの語り口には、積み重ねてきたものを背景とした揺るぎなさを感じました。東京と大阪を結ぶZOOMでのやりとりでしたが、その真摯な姿勢は、画面を通じてもひしひしと伝わるものです。
「自分たちだけでは実現できませんでした。パートナー企業をはじめ、行政や地域の皆さんの協力があってこそ」と、南村さんは話しますが、そうやって互いに手を取り合うことが、何よりも大切なこと。そこには、気持ちよく生きる豊かさがあるように思いました。