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オーガニック農法への回帰、サステナブル視点でワイン界を牽引するシャンパーニュメゾン「テルモン」の現在

オーガニック農法への回帰、サステナブル視点でワイン界を牽引するシャンパーニュメゾン「テルモン」の現在

オーガニック農法への回帰、サステナブル視点でワイン界を牽引するシャンパーニュメゾン「テルモン」の現在

“ナチュールワイン”という名称で、ワイン界でも自然派が注目されています。しかし、そのほとんどは一般的な非発泡の赤白ワイン。特にフランスにおける葡萄生産領域の北限となるシャンパーニュでは、自然環境の厳しさからオーガニック農法がほとんど浸透していないのです。そのなかで頭ひとつ抜きん出ているのが、社員数17名という、小さなシャンパーニュメゾン「テルモン」。彼らによる昔ながらの味わいは、シャンパーニュラヴァーを虜にしているのです。また彼らの思想は、地球環境に対する真摯な姿勢を導き、新たなビッグチャレンジへと繋がっています。「テルモン」がサステナブルな成功事例をつくることで、今後、大手シャンパーニュメゾンが追従していくとも言われているのです。

やがてシャンパーニュにサステナブル思想の波が来る
「テルモンは、パートナーであるワイン生産者とともに、100%オーガニックのシャンパーニュを生産することを目標とし、今後数年間、完全に持続可能な生産ライフサイクルを実現しています。土地の生物多様性の保護から、100%再生可能な電力の使用まで、環境への負荷を徹底的に減らすことを決意しているメゾン・テルモンに、投資家として関与できることを誇りに思います」
上記は、世界的俳優レオナルド・ディカプリオ氏の言葉です(※「テルモン」の公式ページに掲載)。熱心な環境活動家としても知られるディカプリオ氏は、自らテルモンの株主となり、このブランドを積極的に支えています。
いまシャンパーニュラヴァーたちの間で、「テルモン」は注目の的となっています。その理由は、フランスにおける葡萄生産領域の北限となるシャンパーニュにおいて、すでにオーガニック農法を実践し、テロワール(気候風土)を感じさせる味わいを、現代にもう一度、生み出しているからです。その姿勢は今日においてSDGs思想へと発展し、シャンパーニュにサステナブルな価値観を見出す、先鋒役ともなっています。
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この取材は、ANAインターコンチネンタルホテル東京3階にて、期間限定で展開中の「シャンパン・バー by テルモン」で行ないました。写真は、日本で「テルモン」の活動をアピールする、ヘッド・オブ・アドボカシーのローラン ペロダンさん。

日本におけるヘッド・オブ・アドボカシーを務めるローラン ペロダンさんはこう語ります。
「『テルモン』の4代目グレープファーザー(セラーマスター兼葡萄栽培責任者)が事業を引き継ぐタイミングで、このメゾンは未来を目指し、“昔に戻りました”。品質追求の上で、シャンパーニュにおいてもオーガニック農法が不可欠と判断したのです」
3万5000ヘクタールという広大なワイン畑が広がるシャンパーニュですが、現在のところ、オーガニック農法へと回帰したのは、わずかに4%。この数字は、フランスのどのワイン産地と比べても、大きく隔たりがあります。天候不順リスクが高く、高緯度により日照量が少ないため、除草剤・殺虫剤・肥料といった化学物質に依存してきた背景があるからです。
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「テルモン」の畑は、シャンパーニュ地方エペルネ近郊の8つの村にまたがっています。その83%は、すでに数年間に渡って化学物質を使用していない、オーガニック認証取得済みの畑となっています。

「これに対して、『テルモン』の持つ自社畑は25ヘクタール、そして提携農家の畑は60ヘクタール。シャンパーニュ全体からすれば、非常にわずかな面積です。しかしながら『テルモン』は昨年までに自社畑の83%をオーガニック農法に切り替え、提携農家畑の45%を切り替えることに成功しました。そして、2025年には自社畑の100%、2031年には提携農家畑の100%をオーガニック農法に切り替えることを目指しています」(ローラン ペロダンさん)
世界主要都市に製品を輸出する規模で、オーガニック農法を実践するシャンパーニュメゾンは、「テルモン」がトップランナーなのです。
非公開情報はナシ。いずれゴミになるギフトボックスもナシ
もうひとつ、「テルモン」が先駆けて実現しているのは、“情報の透明性”です。
一般的なシャンパーニュメゾンは、毎年、一定の味わいを保つために、数種類の葡萄品種別ワインをブレンドします。しかもNV(ノンヴィンテージ)では、ブドウの収穫年別も指定せず、数年間寝かせたワインもブレンドして、味わいを整えていきます。そして、こうしたブレンド比率を非公開としています。
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エチケットは単なるブランド表現にあらず。ワインのスペックを包み隠さず記す姿勢が、とても潔いです。

「テルモン」でも、狙った味わいを導くために複数の葡萄品種から作られたワインをブレンドしていますが、そのブレンド比率を詳細に公開。さらには葡萄畑や、ドサージュ(※風味を左右する糖類の添加)の分量など、詳細なレシピを個々のラベルに記しているのです。“公開できない情報などない”というのが「テルモン」の考え方です。
「“ない”つながりで言えば、『テルモン』は贈答用の化粧箱も撤廃しました。他のシャンパーニュメゾンでも、昨今、簡易包装のエコボックスを出し始めていますが、『テルモン』の場合は、ノーボックス。包装部材を用いず、購入者が手で持って運んでもらうことを推奨しています」(ローラン ペロダンさん)
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ライター私物の「テルモン レゼルヴ・ド・ラテール」。

実際に筆者が東京都内で購入した「テルモン レゼルヴ・ド・ラテール」は、簡易紙にくるまれて販売されていました。1万円を超えるハレの日用のアイテムでしたが、ラッピングしてもらわずに、そのまま自分のエコバッグで持ち帰る。これが中身で勝負する「テルモン」の姿です。
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さらに「テルモン」では、「サステナビリティレポート」を毎年公開。最新のレポートでは、ワイナリーで使用する電気が100%再生可能エネルギーになったことや、畑で使用するトラクターにバイオ燃料を使用するようになったことなどが記されていました。達成項目にとどまらず、次なる目標設定が記されているのが好印象です。

二酸化炭素排出量削減のため、空輸を禁止。品切れしても、船便輸送にこだわる
「テルモン」では、輸出時の運送スタイルもこだわっています。2020年以降、なんと航空輸送を全面廃止。二酸化炭素排出量が少ないという観点から、いかなる場合でも船便輸送に限定しているのです。
「たとえ店頭に売り切れてしまっても、航空便を使って緊急輸入することはいたしません。欠品補充もすべて船便。その点でお客様にお待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、ご了承いただきたいと思っています」(ローラン ペロダンさん)
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余談ですが、某イベントで「テルモン」を振る舞いたいとする有名企業があったそう。ところが、注文本数が国内在庫で揃わなかったため、航空便で急遽数合わせせずに、丁重にお断りすることになったそう。

航空便は船便に比べて、80倍の二酸化炭素排出量がかかると言われています。それを思えば、「テルモン」の決定に賛同する人たちは少なくないでしょう。
加えて「テルモン」では、アメリカ合衆国において、“ネオライン”と呼ばれる再生可能エネルギーを利用した輸送船実験に参画中。将来的には、輸送時の二酸化炭素排出量完全フリーを目指しています。
リサイクルのために。二酸化炭素排出量削減のために、ボトルを再考
「テルモン」のボトルデザインに目を移しましょう。きれいなピンク色を愛でるために「ロゼシャンパーニュ」は透明なボトルが一般的に利用されますが、透明のボトルを作るのにリサイクルガラスは一切使用できません。透明色を保持するためには、リサイクルガラスを混在させずに、100%一次原料を用意しなければならないのです。
この事実を踏まえ、「テルモン」では「ロゼシャンパーニュ」の透明ボトルを2021年から廃止。リサイクル可能なグリーンボトルに統一しました。グリーンボトルであれば、86%のリサイクル原料を混在させることができるからです。ただし、「テルモン」の「ロゼシャンパーニュ」は、5年間の熟成期間を経て出荷されるため、グリーンボトルのロゼを店頭で確認できるのは2026年以降の予定です。
さらに特筆すべきは、「テルモン」によるフランスのボトルメーカーとの取り組みです。通常、シャンパーニュボトルは、どのブランドも等しく835gが共通スペックとなっていますが、これを800gにまで重量削減するべく、すでにテスト段階に入っているというのです。そうすることで、輸送時の二酸化炭素排出量を4%削減する効果があると算出しています。
「すでにテスト段階に入っていますから、実現に至るのは時間の問題。『テルモン』が成功事例となることで、他のブランドへと波及していくことを見込んでいます」(ローラン ペロダンさん)
たしかに、はじまりはオーガニック農法への回帰でした。そこからパッケージスタイルやボトルデザインの再考につながり、「テルモン」の試みは、いまや地球環境に対するワイン業界の姿勢が変容するトリガーともなっています。彼らの取り組みは小さくとも、それがやがて業界全体を左右していくのです。
そんな彼らに思いを馳せつつ、「テルモン」を味わってみてはいかがでしょう? 旨味とキレが同居する、シャンパーニュの“懐かしくも新しい味わい”が、必ずや、口中に押し寄せてくるはずです。
writer
Equally beautiful編集部
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