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バレエならではの手法で環境問題に挑む! 熊川哲也率いるKバレエが2023年1月公演

バレエならではの手法で環境問題に挑む! 熊川哲也率いるKバレエが2023年1月公演

バレエならではの手法で環境問題に挑む! 熊川哲也率いるKバレエが2023年1月公演

K-BALLET COMPANY芸術監督熊川哲也が仕掛けるBunkamuraとの新たな取り組み、“K-BALLET Opto” の第2弾「プラスチック」が2023年1月8日(日)・9日(月・祝)、KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉にて上演される。上演されるドラマチック・バレエ2作は、世界でも解決課題とされる「プラスチック汚染問題」に目を向け、“プラスチックを供養する”をテーマに掲げている。廃材となったペットボトルやビニール傘を舞台美術や衣裳に再生するなど、舞台芸術だからこそできるSDGsへのアプローチは、観客たちの心に、どのような気づきを与えてくれるのだろうか。

舞台を彩る、プラスチックごみたち。舞台の美しさを通して問題を提起する
“プラスチックを供養する”という斬新なアプローチで演じられるバレエとは一体どのようなものだろう。
地球環境に多くの影響を与え、今後世界的な取り組みが必要とされるプラスチックごみ。2018年UNEP(国連環境改革)の調査によると、日本人1人あたりの使い捨てプラスチックの廃棄量はアメリカに次いで世界2位で、家庭から回収されたプラごみはここ10年で最多を記録。日本だけでも毎年東京ドーム100杯を超えるプラスチックごみが家庭から廃棄されている。
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本作「プラスチック」では、ビニール傘とペットボトルをモチーフに新たなドラマチック・バレエ2作品『ペットボトル迷宮』と『ビニール傘小町』を上演。ごみとして捨てられるはずだったプラスチックごみたちが、大胆かつポップに舞台に彩られることで、美しさとともに問題を提起していく。
『ペットボトル迷宮』では、舞台セットに約10,000本のペットボトルを利用する。巨大なペットボトルの壁がダンサーたちを取り囲むが、使用するペットボトルは全てリサイクル品だ。『ビニール傘小町』では商業施設で捨てられた傘の再利用に加え、現代美術家の森村泰昌氏の展覧会で使用した2,500平方メートルにおよぶ川島織物セルコンのカーテンを、森村氏と「ほぼ日刊イトイ新聞」が手掛ける「アート・シマツ」プロジェクトとコラボレーションして再利用する。
『ペットボトル迷宮』は、鬼才振付家アレッシオ・シルヴェストリンが振付・演出を手がけ、ミュンヘン・バレエ、プリンシパルのジュリアン・マッケイがゲストとして、飯島望未、日髙世菜、堀内將平、成田紗弥らKバレエカンパニートップダンサーたちと共演する。『ビニール傘小町』では、振付・演出を渡辺レイが手がけ、白石あゆ美、石橋奨也、山本雅也、小林美奈、杉野慧らが出演する。
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ここからは、本公演の作品構成を手掛けるK-BALLET COMPANY高野泰寿氏のインタビューをお届けします。
EQUALLY BEAUTIFUL(以下「EB」と略) 今回は“K-BALLET Opto”第2弾作品ですね。
高野泰寿さん(以下「高野」と敬称略) はい。K-BALLET COMPANYは、25年前に熊川哲也が設立したバレエ団です。K-BALLET COMPANYでは、熊川哲也の古典作品へのリスペクトと新たな解釈のもと、国内屈指の規模で絢爛豪華な全幕作品を生み出し続けてきました。古典作品には演目が誕生した当時と変わらぬ感動を、現代に再現できる素晴らしさがあります。そして、ほぼ全ての古典バレエがレパートリーに揃ったいま、熊川が“今だからこそ問いかけられるテーマを、芸術は伝えられる力がある”という思いから、芸術と社会との関係性を模索すべく、「K-BALLET Opto」を新たに設立しました。(※Optoとは光の意味)。このプロジェクトは熊川が芸術監督を務めるBunkamuraオーチャードホールを運営する東急文化村さんとの共同事業なのですが、彼らもまた日本・渋谷から世界に芸術を届けようとする思いの強い会社です。その2社で、「時代性」をキーワードに、バレエ舞台を作りはじめました。
そうしたなかで立ち上げたのが「K-BALLET Opto」です。(※Optoとは光の意味)。このプロジェクトは東急文化村さんとの共同事業なのですが、彼らもまた日本・渋谷から世界に芸術を届けようとする思いの強い会社です。その2社で、「時代性」をキーワードに、バレエ舞台を作りはじめました。
EB その最新テーマが、なんと”プラスチック”! 
高野 熊川と作品の方針を話し合う中で、やはり環境汚染は避けて通れない問題であり、またその中でも特にプラスチックというのは、芸術が扱う一つの大きなトピックになるのではないかという議論になりました。そして、日本が置かれている状況を省みるに、「プラスチック」にまつわる社会の風潮が、とても二元論的で、“プラスチック=悪”と捉えられやすい。すなわち攻撃されやすい対象になっていると感じています。その一方で、プラスチックは生活を豊かにした重要なマテリアルという側面があることは否定できません。衛生面を考えても、プラスチックが与えたプラスのインパクトは大きいと感じています。つまり、プラスチック問題を二元論的ではなく、複雑な感情をまとわせながら表現するには、芸術というツールが必要なのではないかと、考えました。
EB この作品では、“ペットボトル”と“ビニール傘”、ふたつのマテリアを取り上げています。
高野 特にビニール傘は、欧米の人にとっては、日常生活であまり目にしないものです。日本で生み出されアジアでは見慣れた存在であるビニール傘の過剰利用は、どのようにして生まれたのか、どうしてこのような現状になっているのか。そこを日本人の心の問題としてリンクできないものか……。芸術というフォームだからこそ自由に表現できるはずと、バレエの手法で、このテーマを投げかけてみよう思いました。
EB 具体的に舞台上では、どんな表現が展開されるのでしょう?
高野 ペットボトルやビニール傘が、現代社会にとってどのような表象的イメージを持っているのかを、掘り下げていったときに、どういうストーリーが見えてくるのかを発想の起点としました。
例えばビニール傘。ビニール傘は、必要な時に簡単に買われていき、必要がなくなると簡単に捨てられて。盗まれても、あまり気にも留められず、再び雨が降ればまた新しいものが買われていきます。そこに、愛着がないというイメージがあると思います。
この演目で、原案となっているのが、能舞台の「卒塔婆小町」(そとばこまち)です。歳老いて、見すぼらしくなった小町の姿。現在でいうと、人生100年時代と言われる中で、例えば65歳で定年を迎え、その後、70歳まで働いたとしても、そこで一旦、社会的な“機能”は終わって、残り30年間を同じ人間として生きていくものの、あまり意味のある生き方をさせてもらえない。
そうしたギャップになぞらえることもできると思うんです。ビニール傘は製品としては優れているけれども、使い終わったら捨てられて。ところがプラスチックなので、土に還ることもない。そうやって、役目を終えても、残り続けなくてはいけない。
EB なるほど、物語になることで、自分ごとに考えられそうです。
高野 ありがとうございます。その他、ビジュアルインパクトとしても、注目していただけると思います。例えばアレッシオ・シルヴェストリンが振付・演出を務める『ペットボトル迷宮』で使用するペットボトルおよそ1万本は、すべて都内で収集されたリサイクルアイテム(水平リサイクルを含む)です。ペットボトルで作られた幅5メートル、高さ3メートルほどの壁が出現して、舞台上を縦横無尽に動き回ります。ペットボトルの迷宮からダンサーたちが出られない姿、その壁に対峙する姿が、視覚的にも非常に際立つ演出となっています。
渡辺の『ビニール傘小町」でいうと、今回コラボさせていただくのが、美術家の森村泰昌(よしまさ)さん。展覧会で使用されたカーテンの後始末(※)が、カタルシスとして昇華されていきます。そういう舞台上の仕掛けについてもご注目いただければと思っています。
「ビニール傘」の演目でいうと、今回コラボさせていただくのが、美術家の森村泰昌(よしまさ)様。展覧会で使用されたカーテンの後始末(※)が、カタルシスとして昇華されていきます。そういう舞台上の仕掛けについてもご注目いただければと思っています。

※詳細はアート・シマツのURL をご参照ください。https://www.1101.com/n/s/art-shimatsu_morimura/index.html
EB 舞台で使用する一部のペットボトルを、東京・表参道に設置しているリサイクルボックスから自分たちで回収、洗浄したという制作ノート(https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/23_opto_plastic/note/6940.html)を拝見しました。
高野 ありがとうございます。表参道って、きらびやかで、多くの有名ブランドがありますが、街が寝静まった後には、業者の方々が来て、次の日のための清掃をしていて。そういった社会を支えている人たちがいることを強く意識しました。
EB なるほど。そういう気づきも示唆したステージなのですね。ところで、言葉を使わないバレエだからこそ伝わる強みとは何でしょうか?
高野 なんでしょうね(笑)。たしかに言語化できることならば、身体表現に置き換えることなく、言葉をそのまま用いた戯曲のほうがストレートです。
ただ、バレエの場合の抽象度の高さが、重要なファクターと言えそうです。今の世の中って、すごく具体的で、ビジュアライズされたものに溢れています。例えばYouTube動画もそう。しかも見たいところだけをダイジェストで見ることができる。そういうリアルで、具体的なものに埋めつくされている世の中にあると思うんです。
そうした中で、いまだ余白のある芸術として、絵画やバレエが存在します。熊川がよく申しているのは、「総合芸術であるバレエは、平面の絵画に時間、肉体をあたえ命を吹き込むような存在だ」と。色鮮やかな舞台セット、その前後にどういうものがあるのか、そして演者の向こう側に、どういう奥行きが広がっているのかと、観客はイマジネーションを働かせます。
EB 抽象度の高いものであればあるほど、受け取り側が自分の頭を駆使して、感受性を高めながら受け取っていかないと、なかなか飲み込めません。だからこそ、飲み込んだときの深度が深そうです。
高野 バレエが社会問題を扱う意味もそこにあると思っています。
EB 今回は若い人たちに向けても強く発信したいという意図を感じました。募集はすでに終了していますが、18歳以下、25歳以下という枠で無料招待席を確保されていますね。
高野 K-BALLET Optoの活動に特別協賛いただいているPwC Japanグループの下、この無料招待の活動が成立しています。若い方たちのほうが、SDGs的な発想をすでに持っているとも感じています。その世代に向けて、今回のテーマを確実に届けたいという思いもありました。彼らにとって、この公演が何らかのきっかけになれば幸いです。

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なるほど、表現の抽象度が高い古典芸術だからこそ、浮き彫りとなってくる何かがありそうだ。しかもバレエがどのように社会問題を扱うのか、そのこと自体、とてもエキサイティングである。ヨーロッパで生まれたバレエが、日本のフィルターを通じて、社会問題を問う現代バレエに生まれ変わる瞬間に、ぜひ注目してもらいたい。
そしてどれもゴミとして捨てられる予定だったものが、舞台の上で輝きを放つことで、環境問題を身近に感じ、考える機会ともなる。この刺激的な公演に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう?
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『ペットボトル迷宮』
振付・演出:アレッシオ・シルヴェストリン 
企画:高野泰寿
出演:ジュリアン・マッケイ、飯島望未、日髙世菜、堀内將平、成田紗弥、他K-BALLET COMPANY
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『ビニール傘小町』
振付・演出:渡辺レイ 
企画・構成・台本:高野泰寿 
原案:三島由紀夫「近代能楽集『卒塔婆小町』」 太田省吾「小町風伝」
出演:白石あゆ美、石橋奨也、山本雅也、小林美奈、杉野慧、他K-BALLET COMPANY
日時| 2023年1月8日(日) 12:30開演 | 16:30開演 1月9日(月・祝) 12:30開演 (全3公演)
会場|KAAT 神奈川芸術劇場 〈ホール〉(神奈川県横浜市中区山下町281)
チケット(税込)|S席9,000円 A席7,500円 B席3,000円
公式サイト|https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/23_opto_plastic/
主催|Bunkamura / K-BALLET
Bunkamura
Tel.03-3477-3244
writer
Equally beautiful編集部
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