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品質にも環境にも妥協しない、ソニーの素材・商品開発について

品質にも環境にも妥協しない、ソニーの素材・商品開発について

品質にも環境にも妥協しない、ソニーの素材・商品開発について

2020年、ウォール・ストリート・ジャーナルが発表したサステナブル経営ランキングには日米の様々な企業が名を連ねました。誰もが知る多くの企業の中から首位に選出されたのが、ソニー株式会社(現:ソニーグループ株式会社)です。ソニーは2050年に「環境負荷ゼロ」を実現するための長期環境計画「Road to Zero」を2010年4月7日に発表。以降「気候変動」「資源」「化学物質」「生物多様性」の4つの視点にゴールを設定し、製品およびサービスのライフサイクル全般にわたって責任ある活動を行い、「Road to Zero」の達成を目指して様々なテーマに取り組んでいます。中でも、多岐にわたる電機機器・サービスを扱う事業会社のソニー株式会社では、独自開発の再生プラスチックの導入拡大、小型製品の包装材プラスチック全廃に向けた取り組みの継続や、国内外事業所における太陽光パネル設置等による再生可能エネルギー導入を推進しています。今回は、ソニーが手掛ける「環境に配慮した素材および商品」についてのお話を伺いました。

プラスチックゼロのために。緩衝材にまで見られるソニーのこだわり
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今回お話いただいたのは、ソニー株式会社 サステナビリティ推進部門 環境推進部 統括部長の鶴田健志さんです。
「テレビやビデオカメラ、デジタルカメラなどソニーの製品に限らず、家電にはプラスチックが多く使用されています。家電製品を購入された時のことを思い出して欲しいのですが、製品を保護するための緩衝材として発泡スチロールが多く使われていますよね。そのため、製品1台当たりのプラスチック使用量の削減や、リサイクルプラスチック使用割合の増加、プラスチック包装材の代替素材の開発など、多角的な取組みを通してプラスチック使用量の削減を目指しています」
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ソニー開発の紙発泡剤

「プラスチック緩衝材の代替素材として、紙発泡剤を開発しています。文字通り紙から作られた発泡剤で、回収した古紙などを粉砕したものが原材料です。紙が原材料ですから、とても加工がしやすいんですね。ある程度の重量に耐えられるようなもの、あるいは軽量の製品を保護するための薄物シートへの成型なども可能です。現在、各種包装に利用できる緩衝材としての採用を目指して頑張っているところです」
ソニーが自社内に環境対応の部署を作ったのは1990年代のこと。「Road to Zero」が発表されるより前から、環境への取り組みが進んでいたことになります。だからこそ、単純に「製品のプラスチック使用比率を減らす」のではなく、運送するための緩衝材にまで意識を巡らすことが出来るのでしょう。
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「商品のパッケージについても、我々は改善を行っています。オリジナルブレンドマテリアルという素材で、こちらは竹とさとうきび、回収したリサイクルペーパーを原料としています。竹やさとうきびに関しては、環境への配慮の観点で問題がないか、伐採現場は適切な場所にあるのかなど、視察を行っています。つまり、パートナー企業の方々に対しても同じ目線で環境配慮をしていただくという訳ですね。グリーンパートナーと我々は呼んでいるのですが、こうしたサプライヤー様のみとお取引させていただいています」
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「オリジナルブレンドマテリアルがもう一つ大事にしていることは、お客様とのコミュニケーションです。最新の5Gフラッグシップスマートフォン『Xperiaスマートフォン SIMフリー対応モデルXperia 1 IV(XQ-CT44)』や、ワイヤレスヘッドホン『WF-1000XM4』、『WH-1000XM5』といった商品のパッケージに使用※されており、製品リリースの段階でオリジナルブレンドマテリアルをPRしました。新製品のリリースは通常、スペックにまつわるものを推しますので、珍しいと思われるかもしれません。目的はお客様ご自身が手に取った製品が「環境に配慮されたものだ」と感じていただくことなのです。これがきっかけになって、環境に想いを馳せていただければ嬉しいですね」
※「WF-1000XM4は、ラベル以外のパッケージにオリジナルブレンドマテリアルを使用。」
「WH-1000XM5は、製品箱にオリジナルブレンドマテリアルを使用。スリーブはリサイクルペーパーを採用。
オリジナルブレンドマテリアルは、鶴田さんの名刺にも使われていました。ビジネスの場においてもコミュニケーションを忘れないその姿勢は、日本のメーカーならではのきめ細やかさを感じられるものでした。
品質にも環境にも妥協しない、ソニーのモノ作り
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商品を構成する素材を環境負荷の低いものに変更した時、ネックとなるのが「品質」です。多くの素材は従来のものよりも剛性や柔軟性に劣るため、どう品質を担保していくかは多くの企業の課題と言えます。そんな中、ソニーは品質にも妥協しないための素材開発を行っています。その中の一つが、高音質再生プラスチックです。
「環境への配慮と同時に、メーカーとして大事にしたいのが品質です。サウンドバーや、こちらのスピーカーの一部分には高音質再生プラスチックが使われていますが、音質は石油由来のバージンプラスチックが使用された製品と比較しても遜色はありません。ここまでの品質に仕上げるために、かなり苦労しました。再生プラスチックを使うと音が微妙に変わってしまい、なかなか前進しなかったんですね。それでも、素材の配合を変える、製品の構造を変えてみるなど工夫を凝らすことで、音質も担保出来ました。音にも環境にも妥協せずに作りこんだことで、今後のオーディオ製品にも活かせる一つのベンチマークとなったのではないかと思います」
様々な企業が再生プラスチックの導入を進めていますが、ここまで製品の本質に迫る形での活用は例を見ないかもしれません。
続いて鶴田さんが見せてくれたのは、4K有機ELテレビBRAVIA XR™(ブラビア エックスアール)です。
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「この製品の背面カバーにはSORPLAS(ソープラス)™という難燃性再生プラスチック素材が使われているのですが、再生プラスチックの課題の一つが、強度と加工性のバランスです。バージンプラスチックと比較すると、どうしても原料に特性が左右されやすく、製品が求める品質基準の実現に時間が掛かってしまいます。大型テレビのサイズで使用できるようになるまでに、数年の開発期間が必要でした。さらに、SORPLASは優れたリサイクル性に加えて、色のくすみが少なく、塗装処理を施さない状態でも外装パーツにも使用することができます。テレビの背面カバーでの採用は昨年度から始まり、今年度の最新機種では全6機種まで採用モデルを広げています。」
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「SORPLASは素材も特徴的でして、使用済みの大型水ボトル、市場や工場からリサイクルした光ディスクなどを活用しています。変動の多いエンタテインメント向け需要による生産調整などの都合により、光ディスク工場ではどうしても廃材が生じてしまっていました。ソニーにはエンタテインメントに関わる企業がありますから、そうした廃材の活用方法を約20年前から研究していました」
今から20年前の2002年の環境白書のテーマは「動き始めた持続可能な社会」というもの。その段階で既にソニーはグループ会社内の廃材の活用方法を研究していて、今は実用化にまで辿り着いています。そうした姿勢には、環境問題に対する問題意識もさることながら、自分たち自身のビジネスを未来の環境に合わせた形にフィットさせるのだという強い意思も感じ取れます。そして、ソニーの視線は素材だけでなく、その調達先にも向けられているそうです。
現地生産・現地消費が再生プラスチックの使用を拡大させる
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「今課題になっているのが、素材の調達先です。かつては中国での製造が多かったので、中国のプラスチックのメーカーに技術を提供、製造された素材を中国のソニーの工場に納入していました。今ではマレーシアの一部にも製造が展開されていますから、マレーシアで調達先を開拓しています。他にもメキシコですとか、世界各地に存在する生産拠点で現地生産現地消費のスキームを組むことで、再生プラスチックの拡大に繋がるものと考えています。とはいえ、バージン材と比べて再生材の調達先は限られているのも事実です。話が少し戻りますが、オリジナルブレンドマテリアルは中国の竹を日本で製紙しているんですね。そうなると輸送コストが発生しますし、輸送に伴ってCO2が発生します。もっと現場に近いところで製紙ができるようにしなければならないので、今その方策を考えているところです」
現地生産・現地消費が加速していくことで予測される問題の一つが、コストの増加です。原価の増加に合わせて、売価が上がる可能性も考えられます。そうしたケースに備えて、「素材の由来を知っていただくことが重要」と鶴田さんは言います。
「素材の由来を知っておいていただけることで、購入時のご納得感が抱きやすくなるのではないでしょうか。今は素材の開発や調達先の開拓など足元を固めるフェーズですが、ゆくゆくは「この素材が使われているから、購入する」という方向に持っていければと思います」
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環境への取り組みを紹介する展示パネルにもオリジナルブレンドマテリアルを採用

大企業であるソニーは、その行動が多くの会社や消費者に影響します。「環境への負荷が低い」ことが製品価値に繋がっていく動きを作ることで、他の企業にも同様の動きが波及していくかもしれません。
最後に今後の展望についてお伺いしました。
「ソニーは「Road to Zero」を掲げていますので、プラスチックは100%再生材のものにします。さらに製品寿命を迎えたものについて、埋め立てるのではなく、リメイク・リサイクル・アップサイクルなど、循環型のビジネスを構築していきたいと考えています。環境とビジネスを両立させるということですね。そして肝に銘じているのが、我々の独りよがりにならないようにするということです。ユーザーの皆様と接点を持ち、コミュニケーションさせていただきながら「Road to Zero」の実現を、そしてその先の未来を目指していきたいと思います」
真に環境問題を解決しようとしたとき、必要になるのが周囲からの理解です。社内からの理解、他社からの理解、生活者からの理解。それは途方もない道のりですが、誰よりも早く環境問題を見据えてきたソニーであれば、2050年までに「Road to Zero」が達成された世界を見せてくれるのではないでしょうか。
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鶴田健志
大学卒業後、1991 年にソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に入社。半導体(LSI)の設計者として8年間従事した後、社内募集制度を使って環境に関連する業務を担当する部署に異動。以来、中国赴任期間を含めて、一貫して環境に関連する業務を推進。2022年3月より現職。
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Equally beautiful編集部
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