まるで麺のようにニューっと出てきているのが再生後のプラスチック原料
小池さんは新興産業の代表取締役社長を務めておられるだけでなく、全日本プラスチックリサイクル工業会の副会長、九州プラスチックリサイクル工業会の会長としての顔もあります。小池社長には、先ほどとはまた別の工場を案内していただきました。
「こちらの工場では食品のパッケージに使うフィルムをリサイクルしています。廃番になったものや、製造過程で皺が寄ったなどのミスがあり、廃棄品になったものを裁断して溶融固化します。フィルムは太い筒に巻かれてロール状のものが多いので、人の手によってギロチンで裁断して、芯を抜きます。この芯もリサイクルするために他社の工場に行きます」
B品や商品入れ替えなどで不要になったフィルムのロール
フィルムの裁断には人が必ずついていないとできない
裁断後のフィルムの状態
フィルムの説明をしてくださる小池社長
「ここに一本のペットボトルがありますが、ペットボトルの本体はその名の通り「PET」です。キャップはほとんどがポリプロピレン(PP)かポリエチレン(PE)です。この工場にはこうしてペットボトルのキャップは箱に詰められて送られてくるのですが、これを粉砕して、溶かしやすくします」
最終的には、ふたつの溶融炉でそれぞれペレットにまで成形されるそうです。
工場に届いたさまざまな色が混じっているペットボトルのキャップ
ついにわかった、ハンガーが黒の理由。
広大な工場見学が終わり、改めて小池社長にお話を伺いました。
「創業から48期を迎えるのですが、創業当時から20年くらいは『ゴミ屋さん』なんて言われていましたね。27、8年前から『再生屋さん』になって、いつの間にか『リサイクラー』になりました」
リサイクルという言葉がいつ生まれたのかは定かではありませんが、環境白書でその言葉が登場したのは1980年のことでした。新興産業は1972年に創業したので、言葉としてのリサイクルが生まれる前からビジネスを行っていたのです。リサイクルがその意味も含めて広く知られるようになったのは、ここ20年ほどのことですが、さまざまな法律の施行や環境問題のクローズアップなど、新興産業を取り巻く環境は大きく変化してきました。
「以前は人海戦術で、分別して、洗浄して、溶融してという流れでしたが、オートメーション化が進み、ずいぶん変わりましたね。ですが、以前から変わらない目標があります。それはバージンプラスチック(石油からできたもの)に近い物性をつくることです。数値的にはかなり近づいていると思っています。検査、試験でもいい数値が出ていますので、まだまだよくなるとおもいます」
前編でお伝えした通り、プラスチックは物性によって使用用途がまったく変わってくるのが特長です。ただ硬ければいいわけでも、しなりが良ければいいわけでもなく、その使用用途によってプラスチックをつくり分けています。
「弊社の強みはさまざまな物性を可能にする配合のレシピです。硬くてしなるものならこの配合、柔らかさも求められるならこの配合という経験と技術があります。ニーズに合わせたリサイクルプラができるというわけです」
リサイクルを考える時、私たちの頭の中に思い浮かぶのは「ゴミを分別する。回収ボックスに入れる」、あるいは「リサイクルされた後の製品」のこと。ゴミを回収し、リサイクルプラスチックへと生まれ変わる背景には、リサイクルを生業とする企業の努力が隠されているのです。
「プラスチックはリサイクルの優等生と呼んでいますが、リサイクルプラの中でも95%以上、おそらく97〜8%までリサイクルでできている製品があるのです。それがクリーニング屋さんから服が戻ってくるときにかけられているハンガーです。黒いものはまずリサイクルプラスチックだと思っていいとおもいます。他の色はバージンプラスチックの場合がほとんどかとおもいますが、ハンガーに関しては97〜8%がリサイクルプラスチックです」
身近なところにリサイクルプラスチックがあった!?
「リサイクルの優等生の中でもハンガーは一番かもしれない」と小池社長
「ではなぜ、黒いか、わかりますか? 色々な色を合わせていくとグレーに近づくんです。プラスチックは色抜きできません。カラーの場合は素材が限定されてしまいます。あらゆる素材を配合することから、グレーになり、最終的には黒にすることになるわけです。」
そういえば、前編で拝見した家庭ゴミからのプラスチックのリサイクルプラの原料も既にグレーになっていました。
「黒だから低コストでリサイクルプラスチックにできるのです。ただ、ハンガーはぐにゃっと曲がるのは商品として成り立たないので、ある程度の硬さを持って、負荷が耐えられないと折れるという物性の配合でつくります。他に黒でつくれるものをあげると、農業用の鉢や倉庫などで使う運搬用のパレットそして、医療用のペール缶などですね」
小池社長のお話を伺うと医療用のペール缶は注射針などを入れて、そのまま捨てられるものが感染予防の観点からもよく、リサイクルプラスチックが活躍できる商品だと言います。自動車のパーツにもPE、PP、ABS、PSなどのプラスチック素材が使われており、燃費向上を図った軽量化の流れに伴い、鉄などの金属がプラスチックに代替されることも多くなっているそうです。一部の自動車メーカーでは将来のリサイクルプラスチックの25%以上の使用を目標に掲げられているそうです。
リサイクルプラスチックをバージンプラスチックと近い物性にすると未来像を語ってくれた小池社長
「皆さんの身近なところでリサイクルプラスチックが使われることが増えています。ただ、リサイクルプラスチックには安かろう、悪かろうというイメージも多くあり、苦労もしましたし、今でも物性は二の次でリサイクルプラスチックを提供する会社もあります。ですが、我々はこうした製品をバージンプラスチックに近づけたい、そのために配合に力を入れているのです。幸いなことに、昨今の環境意識の高まりから、プラスチック・リサイクル業界を世間に認知していただく機会が増えており、世の中に必要とされる職業なのだと日々感じています。社員に誇りを持って働いてもらうことはもちろん、誇りを持てる業界にしていく。それが私たちの目指す未来です」
小池社長が見る未来のリサイクルプラスチック。プラスチックが悪者になりがちな昨今ですが、新興産業さんは新たにプラスチックを生み出すのではなく、廃棄されたプラスチックを生まれ変わらせることで、プラスチックの循環をしています。新しいプラスチック製品をつくりながらも、地球上のプラスチックの量を増やさない。こうしたアプローチもまた、プラスチックを取り巻く問題への一つの解答と言えるのではないでしょうか。