新興産業さんの工場は博多から30分ほど電車に乗った土井駅から車で5分ほどのところにありました。粉砕、洗浄と溶融固化をする工場には寒い日に伺ったのですが、中は熱気がこもっていました。
私たちが何気なく分別ゴミとして捨てているプラスチックですが、そのプラスチックがどんな種類かを気にすることはあまりありません。しかし、プラスチック業界では明らかに違うものなのです。
プラスチックの素材は、製品の特性に合わせて選ばれます。ただ単に選択するだけではなく、硬さやしなやかさ、反発力などを計算して、配合を変えるものでもあるそうです。
素材はポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ペットボトルの原料になるPET(ポリエチレンテレフタレート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)など、多岐に渡り、実にさまざま。そして、新興産業さんでは、主にPP、PE、PSの再生をしているそうです。
最初に見せていただいたのは、リサイクル用プラスチック素材の中でも家庭ゴミからの素材を扱うラインでした。これらの素材は表面の光の屈折率が違うため、回収した後に光学選別が可能になります。新興産業さんに届けられる素材は、別の業者で光学選別されたものです。このラインは、その中でもポリプロピレンを取り扱うもの。リサイクル用プラスチック素材は洗浄粉砕され、減容(容量を少なくすること)された状態で届きます。それをベルトコンベアに流すと溶融炉に入っていきます。この溶融炉の温度がとても重要なのだそうです。
現場を案内しながらお話してくださったのは、新興産業取締役経営企画室長の田中毅さんです。
「光学選別は済んでいるのですが、それでも光の反射誤差や、何層にも重なっているフィルム素材、プリントされた素材、アルミ蒸着された素材などが混ざってしまいます。このラインではポリプロピレンの再生をするのですが、溶融炉の出口ではスチールメッシュを通します。ここでアルミ蒸着の素材や、PETが溶けない温度にすることで、このスチールメッシュに引っかかります。温度を高くしすぎてしまうと今度はPETが溶けてしまい、メッシュを通ってしまうのです」
プラスチックの純度を上げるためのスチールメッシュ、使用前使用後
なるほど。まさしく科学の力でより精度と純度の高い原料にしていくというわけです。
「この後はドロドロに溶融されたポリプロピレンが出てきて、最初は棒状になり、水で冷やして、ペレット化されていくという流れです。その際に乾燥により水分を取り除いたり、脱気により塩素ガス等も除去することもできます」
出来上がったペレットを田中さんに見せていただきました。
「ここでできるリサイクルプラスチック素材だけで製品化をするわけではありません。このペレットもまた原材料の一部なのです。というのは、プラスチックは使われる製品の用途によってその「物性」を変えていく必要があるからです。衝撃を吸収するけれど硬さも必要。あるいは、一定量の負荷がかかると折れるのは良いけれど、曲がるのは困るといったケースが挙げられます」
緻密な試験、検査の繰り返しで、質の高いリサイクルプラスチックが誕生する。
叩く、曲げる、潰す、雑物が混じっていないかを見る複数の検査機
次に田中さんが案内してくれたのが工場内にある試験ブースです。
「ここには衝撃耐性や伸縮性、曲げに対する耐性を検査する検査機があります。私たち新興産業はリサイクルプラスチック素材を目的別につくり分けることを得意としています。目的に合わせた素材をつくるためにはプラスチック同士の配合が重要になります。配合によって剛性も変えられますし、柔軟性も変えられます」
また、この工場には倉庫などで使われるパレットや、瓶ビールなどのケース、コンビニなどで使われる輸送ケースを砕いて材料化する機械もありました。
「この機械では運びこまれた素材を粉砕して、洗浄をするのですが、洗浄と同時に不純物を取り除くことができます。粉砕して細かくなったパレットなどのプラスチックは水で洗浄しながらも素材には砂や土が付着している場合や、ときには釘などが刺さっている場合があります。こうしたものは比重が重いので、水で洗浄中に下に落ちるのです。それで、純度の高い柔軟性を持った素材だけが残ります」
この現場を見て、ふと思い出したことがあります。パレットも瓶のケースもかつては木製でした。つまり、こうした用途に使用されるプラスチックの特性は、クッション性があり、折れにくく、重さには耐えられる木に近いものがあるのではないでしょうか。
工場内にたまたまあったパレットもリサイクルプラスチック製
「剛性・柔軟性といった面では、確かに木製とプラスチック製には通じるものがあります。ただ、木製のパレットが課題としていたのはカビや虫、微生物の付着でした。衛生面を考慮した時に、プラスチック素材は最適だったのです。一方で、木製のものと異なり、プラスチックは自然に還らないものが殆どです。そこで私たちのような企業が、プラスチックをまたプラスチックへと生まれ変わらせているのです」
続いて見せていただいたのは、透明な小瓶のようなもの。
「ペットボトルの原材料のB品もこちらで粉砕して、原料にします。これ、わかりますか?」
一見するとペットボトルには到底見えないのですが、これを膨らませることで、私たちのよく知ったペットボトルの形になるそうです。
大規模な工場見学が一段落したところで、プラスチックのリサイクル率95%とも言われるプラハンガー(クリーニング屋さんから戻ってくるときのハンガーです)が黒い秘密が解き明かされていきます。(後編に続く)